三題話を作らないか
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- [0]シノプス 06/08/19 10:08 Aj8AEkmZiK
- 3つのお題を元に即興で文章を作るという、あれです。
前の投稿者が出した3つのお題を全て使って文章を書き、
最後に次の投稿者のために3つのお題を出してください。
お題が入ってさえいればジャンルは何でも構いませんが、
場所が場所ですので、官能表現などは自粛してください。
細かいことはまた後々追加します。とりあえず書いてみませんか? - [1]シノプス 06/08/19 10:56 Aj8AEkmZiK
- 前の投稿者がいないので、適当に3つ見繕って書いてみました。こんな感じで。
「車椅子」「うだるような暑さ」「ポスト」
「これよろしく」
望は白い封筒と数枚の葉書をつき出した。私に出して来い、というのである。
「帰りにな。帰りに出す」
気の抜けた声で答えつつ、私は吹き出る汗を拭った。室内に居るとはいえ、病院内にはほとんど
冷房が効いておらず、こもった空気のせいで外と大して変わらない暑さだった。
私は長いすに腰掛けて息をついた。まあ、いかに暑いとはいえ、強烈な日照りから逃れられるのはありがたい。
椅子に深くもたれこみ、顔だけを望に向ける。
「お前は元気そうだな」
「まーね。おじさんよりかは」
情けない格好で自分を気遣う叔父を見て、望は複雑そうな笑みを浮かべた。
「これのせいで仰々しく見えるけど、別に大したことはないんだよね」
彼女は自分の乗っている車椅子をつついて笑った。知っている、と私も笑った。
さっきの葉書を手に取り、私はどこのポストが一番近いかを考えた。
帰り道にポストは無い。このうだるような暑さの中、私は可能な限り短いルートで
この手紙を投函し、駅に戻らねばならなかった。
次は「はさみ」「クロワッサン」「霧吹き」で。 - [2]equilibrium 06/08/19 23:12 9yMjbvUMnP
- シノプスさん、ルールについて質問です。
話を繋げていくのでしょうか、それとも
全く新しい話をその都度書くのでしょうか?
それともそのどちらでも良いのでしょうか? - [3]yassan 06/08/20 00:37 *Y1gESPhTjUy*jXtrWnH/js
- 久しぶりの休日だが、荒れ放題の庭にはさみで刈り込んで芝生を綺麗にしてやった。
私は汗をかいた体にビールを所望したのだが、妻に叱られてコーヒーとあいなった。
やれやれ。
妻は小さな袋から、それはまた小さなクロワッサンをスヌーピーの絵皿にのせてくれた。
やれやれ。
「あれぇ これは可愛らしい大きさだねぇ。」
「知らなかった? 一口サイズがいいのと、これ1ケ百円なのがいいのよね。」
「1ケ百円は安いねぇ。」
本当は安いかどうか知ったこっちゃないが、妻にはこういう言い方が無難だと学習してる。
食ってみたところ、小さなながらサクサクして思いのほか甘味も感じて美味いのだ。
普段の妻は甘い菓子類が多いのだが、私に気を使ったのだろうか?
うれしくなった私は、「では、君に瞬間芸をひとつ披露しようかな。」と言った。
やれやれ。できるんかいな。
しばらく物置の中をゴソゴソしたが、朝から気温が上がりっ放しで暑くてかなわない。
「それでは、奥様、目を閉じて・・・・」
「はーい! 奥様、目を開けてよろしいですよ。」
小さな虹が夫婦の間に綺麗にかかっていた。
「奥様、どうでしょうか?」「綺麗、綺麗、 いいんじゃない!」
背中に隠した右手に1ケ百円也の霧吹きが、
「どうだい!見事だろ!」 と言った とか 言わないとか。 - [4]シノプス 06/08/20 02:08 O3h/bLzR2v
- >>2
別に繋げていく必要はありません。
でも、あえてそういう縛りを自分に課すのは面白かも。
それと、前の投稿者がお題を指定しなかった場合、
その前のお題を継続してお題とします。
つまり、次も「はさみ」「クロワッサン」「霧吹き」で。 - [5]Kelp 06/08/20 13:39 1OVvZP7CaK
- ゆっくりと目覚めた休日の朝、一瞬自分がどこにいるのかわからなくなる。
いつもは部屋の暑さに耐え切れず目覚めるのだけれど、今朝は少しだけ違う。
程よく冷やされた部屋。暖められたクロワッサンとコーヒーの香り…昨夜の会話を思い出す。
『此処に来るのももう最後かもしれない。』
長い事、君だけにしか切らせなかった髪…その髪を濡らしはさみで整えながら君は言った。
『結婚するのよ』と。
『ふ〜ん』と短い返事をしていつものように君の為すがままにされていた。
髪をクシャクシャに乾かす時もただ笑っていた。何もかもがいつものように。
何も変わらない…そう思った。
あんな事を言っても君は又来るだろうし、時々会えれば僕はそれでいいのだから…
そして今朝、ソファーで目覚めて君の姿を捜す。
ベッドにかすかな温もり、空っぽのキッチン…僕より朝寝坊な君がどこにもいない。
体の奥から喪失の痛みがやって来た。君を完全に見失った…
君がどこに住んでいるのかさえ僕は知らなかったのだ。
次は 「猫」 「指輪」 「長い階段」で。 - [6]シノプス 06/08/21 09:18 oA8nv5/CBB
- 志村ーっ!! 霧吹き、霧吹き!!
「猫」 「指輪」 「長い階段」
店内は思ったよりも明るかった。電灯、クロス、カーテン、
カーペットに至るまで、どれも暖色系でまとめられ、背の低いラックや
アンティーク調のキャビネット、そして大きな鏡が壁際に沿ってぐるりと並べられていた。
「いらっしゃい」
声をかけたのは若い男性だった。どこにでもいそうな普通の人だ。
唯一、黒猫を抱いているところはそれっぽかったが、逆に言えば本当にそれだけだった。
先輩はその隣にいた。窓際のラックの前に屈みこみ、中を物色している。
声をかけると、遅い、と言われた。僕はそれを無視して言った。
「……何か、イメージと違いますね」
「もっとおどろおどろしい所だと思ってましたか?」
ドクロの意匠が施された不気味な指輪に夢中になっている先輩に代わり、
さっきの店員が答えた。率直な物言いに少し驚いたが、案外自覚はあるもんなんだな、とも思った。
「ナチュラルかつアットホームに、と言うのがうちの方針なんです。一見さんにも
気楽に覗いていただけるように。まあ、あの長い階段のせいで滅多に人なんて
入って来やしないんですけどね」
店員はそう言って笑った。でも正直、無駄な努力だな、と僕は思った。
だって、魔術品ショップにわざわざ足を運ぶ客なんて、先輩みたいな確信犯だけだろう。
冷やかしなら来るかもしれないけど。
次は「海岸」「空気」「台風」 - [7]equilibrium 06/08/21 13:07 LFO8NcDVa/
- 先んじられた! 「猫」と「指輪」まで練りだした処で、
あと一息で「長い階段」の登場だったのに!
涙を呑んで、次いきます。
「海岸」「空気」「台風」
彼女とよく来たT海岸。此処で出会って、此処で愛を重ね、此処で別れた。別れてから数年、此処をどうしても訪れる気になれなかった。此処の海は彼女の思い出と重なりすぎているからだ。もうそれも思い出の彼方と思えるようになれたから、再訪しようとする気にもなれたのだ。
あの頃のT海岸は海水浴客で賑わう華やかでいて俗っぽい場所だった。今、僕の目の前にあるそれは、人っ子一人いない或る一つの海の断片に過ぎない。あの頃の暑くて湿った空気は失われ、何も無かった如く落ち着き払った乾いた空気に変わっている。夢だったのだろうか。あんなにも僕の心を熱く煮えたぎらせた彼女との恋愛は。
沖を大型船が走り、高波を立てた。波が岩礁にぶつかり、一瞬、彼女の幻想を見せた。当時のままの彼女が岩礁の上に立ち、微笑んでいる。僕は息を呑み、思わずそこに駆け寄った。波は直ぐに治まり、彼女の幻想も消滅した。
「馬鹿だな。彼女が此処に居るわけがない。どうしたって、居る筈がないんだ」
目の裏が熱くなり、無性に遣る瀬無い気持ちに囚われた。
「何故こんな処に来たのだろう。分かっていたのに、此処に来たって彼女が生き返りはしない事くらい承知してるのに」
このまま電車に乗り込んで涙を他人に見られるのは嫌だから、泣くだけ泣いて、涙が乾くまで此処にこうして居ることにしよう。どんより曇った空から淡い太陽の光が何本も筋をなして海を照らす。もうじき台風の季節がやって来る。
次回の御題は「着物」「露地」「約束」。 - [8]Kelp 06/08/21 22:51 mFBLD/VYbB
- 湖のほとりにある染色工房。
今は私と父とでひっそりと仕事を請け負っている。
趣味が高じて染物を生業にする父は母を亡くしてから急に老け込んだようだ。
『今日は母の命日だから…』朝食の時、私がそう言うと父は白い封筒を私に渡した。
『お墓参りの後、これで美味しい物でも食べておいで。』
父は私が年齢相応な楽しみも無く毎日を家に篭って過ごすことに負い目を感じているのだ。
『お給料ね。』と言ってそれを受け取る。
母の眠る墓は湖の反対側にあった。
電車に乗り、小高く景色のいい墓地に着く。
誰が参ってくれたのか母の墓には生前、母が好きだと言ったヒマワリの花が飾ってあった。
ほのかに線香の香り…
私が持っていったグラジオラスの花は無縁仏の墓に飾られた。
帰りの電車に乗り途中の駅で降りるつもりでふと目を上げると、そこに見覚えのある柄の着物を着た女性が立っていた。
「あれは確か…」
その女性の後を追う様に同じ駅で降り後をつける。
真昼の暑い日ざしを避けてその女性は白い日傘をさしていた。
その日傘が飲食街の露地の奥に消えたのを見てから急ぎ足で露地を曲がる。
その女性が立っていた。此方をじっと見つめている。
『あなたを知っているのよ。』と彼女は言った。
『不躾は承知ですがあなたの着ている着物はもしかしたら私の母の物では?』
父が描いた一品物なのだ。私の問いに彼女は答えた。
『あなたのお父様に頂きました。お母様もご存知のこと…でも、これ以上は約束なので話せないわ。』
彼女の目はもうそれ以上の質問は受けないと私に告げていた。
私は朝の浮き浮きした気持ちには戻れず、時間をかけて家に戻った。
帰った私に父が聞いた。
『早かったね。お母さんとはゆっくり話せたのか?』
『ええ。何年分もの話をして来た…』
もしかしたらあの女性が新しい母になっていたかも知れない。
そう思いながらなぜか、それ程嫌でも無いなと父に笑顔を向けた。
志村です。長くなってしまいました。
霧吹きは髪を濡らす時に使いますがニュアンスでなく言葉として入れないといけないんですね。
試しました(笑)
次は「本を読む」「散歩」「虹」で。 - [9]yassan 06/08/22 20:37 *Y1gESPhTjUy*Ske2L9KLS/
- どんどん北の空の雲行きが怪しくなり、雲間に雷がキラっと見えるようになる。
雲の流れからも、やがてこの辺りにも雷混じりの雨がくるのがわかった。
しかし、ここは暑い炎天下で私達は彼の作業が終わるのを待っているのだ。
「もし、今雨や雷が落ち出したら彼を置き去りにして逃げましょう。だって、
こんな場合、犠牲者はたったひとりでいいのですから。」
名指しされた彼のなんだよーという惨めな顔に車の陰から彼女が笑った。
ギクシャクした会話に我慢ならないのはいつもの性分か。
「最近、本を読みだしてね。今読んでいるのは松本清張の「砂の器」です。
読んだのは随分と昔の話なので、今読み直して見て本当に忘れてますね。
ちょっと前の「砂の器の意味」その答えが書いてあるのを見つけました。
人間は忘れるんですね。いや、思いが足らないのでしょうかね。」
北の空が一段と暗くなってきたが、綺麗な色の光が見え出したのだ。
「あぁ 虹ですね。しかし、珍しい事に上下ふたつも見えますね。」
「ほんどだぁ」彼女は不思議そうに見ていた。
私も虹を見るのはとても久し振り。なんか、得をした気分だ。
彼の作業はなかなか終わらない。
若い二人は草も伸びきった下の造成地でお喋りを始めた。
暗さと距離感のせいか、二人が前からここに住んでいるような錯覚を覚えた。
辺りはとても暗くなって、遠くを走る車もヘッドライトを点灯している。
お喋りをしてる二人は散歩の途中のような雰囲気を感じさせてくれる。
でも、本当は彼の作業を二人が優しく待ってくれているのだ。
「まったく、君の仕事は遅さといったら・・」
再び、彼のなんだよーという惨めな顔に今度は二人が大きく笑った。
次は「レストラン」「喧嘩」「片親」でお願いします。
志村さん、そうでしたか。なぜか、納得。 - [10]シノプス 06/08/23 06:24 KwN.PvWopB
- >>8
そういやその辺りの所を明記してませんでしたね。追加しときます。
言い遅れましたが、動詞は基本的に活用可で。言わなくても大丈夫だったようですが。
それと、先越されちゃっても、投稿してもらって構いませんよー
せっかく書いたものですから。
「レストラン」「喧嘩」「片親」
週に一度は繁華街のレストランで食事をした。父は私を高そうな服で綺麗に飾り立て、
テーブルの向かいに座らせておくのが好きだった。父が選んだのはいつもパンツルックの
男っぽい格好ばかりだったが、それは別に父がマニッシュな女性に劣情を刺激されるような
男だったからという訳ではない。母が好んでそういう服装をしていたのだ。もっとも、
私はもうぼんやりとしか覚えていない。
二年前、私は事故で片親を亡くし、間もなくもう片方も親であることをやめた。
つまるところ、両親を失った。ただ愛情だけは残り、父はそれを明らかに歪んだ形で
私に注いだ。その頃、私は14歳だった。
食事中、父と私との間に会話はなかった。父はただ私の一挙一動をうれしそうに眺め、
私はそれに気づかないふりをして黙々と料理を口に運ぶ、というのが常だった。
傍目には、反抗期で口をきいてくれない娘と、かわいそうな父親、というふうに映ったかもしれない。
でも実際のところ、私は生涯において反抗期というものを経験することはなかったし、
父との間には喧嘩のひとつもなかった。まあ、当然といえば当然のことかもしれない。
喧嘩というのは対等な、あるいは対等だと感じられるような間柄でなければ起こらないのだから。
次は「岩塩」「サイバネティックス」「たこ焼き」で。 - [11]♪亜譜里織♪ 06/08/23 23:32 O3qiFDui7A
- 先越されちゃってもいいんですか?
では、だいぶ前に出しそびれた、「猫」 「指輪」 「長い階段」です。
***********************
タバコが吸いたくなって、マンションの非常口から外階段に出た。
きょうは満月。
階段のコンクリートが、月の光に煌々と照らされて白く輝いている。
その月明かりの中を、一匹のシャム猫がすました風情で横切って行く。
「猫の分際で、ずいぶんと気取ったやつだ」
よく見ると、ぴんと立てた細いシッポに指輪がキラリと光っている。
「ははぁ、猫の奴、指に嵌められないものだから、シッポに嵌めてやがるな」
「生意気な奴だ。こうしてくれる」
ひょいとお月様に手を伸ばすと、端っこをちょっとおっ欠いて、
やっとばかりに、生意気な猫めに投げつけてやった。
猫は、キャット飛び上がったかと思ったら、シュポポンと黄色い煙になって消えてしまった。
あとには、シッポから外れた指輪がコンクリートの上に落ちている。
「ははは。ザマを見やがれ。こいつは俺様が頂いてやる」
その指輪を拾ってポケットに突っ込んだ。
さてとタバコを口にくわえると、いつの間にやら子供の薄荷パイプに変わっているではないか。
「あれあれ、猫の奴に仕返しされたぞ」
「まぁいいか、これでお相子だ」
そう思った瞬間、足元がぐらりと揺れて、階段から足を踏み外してしまった。
そのままバランスを崩して階段をごろごろと転げ落ちる。
「これは、たまらん」
転げ落ちながら上を見上げると、お月様が三日月顔で睨みつけている。
「しまった、お月様の事を忘れていた」
これは、お月様の仕返しだったのだ。
「猫の奴からせしめた指輪を差しあげて謝っったら、お月様は許してくれるかしらん」
そんな事を考えながら、私は長い階段を転げ落ちているだった。 - [12]Kelp 06/08/25 20:32 mFBLD/VYbB
- その中年の男性はもう3日も前から頭を抱えている。
パソコンの画面を見てはため息をついているのだ。
新婚旅行で言ったオーストリアのお土産を渡す機会を待ちながらそっと声をかける。
『課長、何をそんなに悩んでいるんですか?』
『うん…実はね。』
話を聞くといつも遊んでいる掲示板のカテゴリーで三題話と言うのを作っているらしい。
そこで出されたお題が突飛なもので誰も手を出さないと言うのだ。
『何も課長が書かなくても誰かが書くでしょう。』
『私もそう思ってたんだがeさんもkさんもaさんも手出ししない。ここは私が書かないと…』
私は画面を覗き一瞥するとサラサラと書き込んだ。
サイバネティックスは夜食のたこ焼きを冷めた人工頭脳に変える。
その一行を見て課長はようやくデスクを離れ帰り支度を始めた。
『課長、これは皆に配っているお土産なんですけど。』
私はそういってお菓子と岩塩を課長に渡した。
課長が一言…『君は全くそつが無い。』
先生。こんな感じでお許し下さい。
次は「鏡」「カーナビ」「放浪」で。 - [13]equilibrium 06/08/25 22:28 IzdLfKVgZq
- >>12
うあ、またタッチの差でやられた!
しかし、かぶっても良いということなので、遅ればせながら。
「岩塩」「サイバネティックス」「たこ焼き」
俺は今まで岩塩しか食ったことがない。岩塩は塩化ナトリウムが主成分の結晶鉱物で、鉱物だからというわけではないが、俺の好物だ。お察しの通り、俺は人間ではない。アメリカの数学者ウィーナーによって創始されたサイバネティックスという比較理論を応用して設計された人工頭脳を持つアンドロイドだ。
俺より新しい世代は岩塩でないものも食せるという。彼らは食品の香りや色艶に触発されて、食欲という欲求を起こすらしい。俺にはそんな経験が無い。「美味しそう」とか「食べたい」っていうのは一体どんな思考なのか、俺には全く分からない。
今夜は仕事で知り合った新世代のアンドロイドであるQに誘われて「たこ焼き」なるものを食べに行く。Qが選んだその店はたこ焼きで一世を風靡した名屋台。初めてのたこ焼き。水気の多い粘土の如く柔らかい球状の物体。口に入れた途端それは小麦粉とダシをメインにした物体だと直ぐに見当がつく。中央付近に挿入された蛸の足の一片。
「これ、これ、これなんだよなあッーー!! この独特の味はここでなきゃ到底出せないシロモノなんだよ!」 涙に打ち震えてそう叫ぶQを俺は驚愕の眼差しで眺めた。涙を流すほど素晴らしいものなのか?しかし俺は何も感じない。何故だ?そうか、他に比較研究するものを知らない俺はそれ故にこの素晴らしさに気付けないのだ。
俺はQに他のたこ焼き屋にも連れて行けと懇願した。Qのガイドによって様々なたこ焼きを食してみた俺は、激しい混乱に見舞われた。何だ?どれもこれも同じじゃないか。多少柔らかさやソースの銘柄に違いはあるものの、だからどうだというのだ。涙を流すようなことか?やはり何も感じない。俺は激しくQに嫉妬した。新世代のアンドロイドに感じられるクオリアというものが俺のような古い世代には欠けているのだろうか。それともQはただ演技しているだけなのだろうか。 - [14]equilibrium 06/08/25 22:41 IzdLfKVgZq
- 訂正:
× 中央付近に挿入された蛸の足の一片。
○ 中央付近に殺害された蛸の脚部の一片が挿入されている。 - [15]yassan 06/08/26 19:48 *Y1gESPhTjUy*Ske2L9KL5p
技術の進歩は素晴らしいもので、次々と新機能の新しい商品が生まれる。
世に送り出された商品は人の生活を便利で豊かにするのもである。
決して、その商品を使うことで不便を生じることなど考えない。
青年はテスト中のある新商品のモニターをネットで応募していた。
さきほど、そのモニター商品と会社のくどいくどい説明文とが一緒に届いたのだった。
商品名は「未来」と書かれてあった。青年は説明を読んで早速使ってみる。
その商品の用途は「カーナビ」だったが、車への設置を必要としない新しい発想で作られた。
それはシャツのポケットに入れるだけででいい。なんて、簡単なんだと、青年は驚いた。
例えば「東京の青山の・・」と言うと、「未来」は音声で伝えるのだ。
「未来」は音声を人体の骨伝道で伝えるのだ。従って、雑音や騒音の中でも聞き取れるのだった。
最大の特徴は親しい友人が地図を広げて、教えてくれていると錯覚するような親近感にあり、
機械的な一方通行ではないのだ。受け答え可能で、人の暖かい気配りのアルゴリズムが組まれていた。
青年は車を持っていなかったが、すぐにバイクに乗り「未来」を連れて出発した。
今までは走行中に地図を見るなんて考えられなかったが、青年がマイクを通して「未来」に告げると、
騒音の中でも「未来」は青い光を放ち、なんの問題なく人体の骨伝道を使って、青年に進路を伝えた。
「あれ、どっちだろう?」迷った青年の言葉に「未来」はすぐに反応して青年に伝えた。
「未来」は青年に話し掛けてきた。
「走りっぱなしだけど、大丈夫ですか?」
「あぁ 僕は大丈夫さ。」
「頑張ってくださいね。」と伝えた。
バイクの鏡にポケットの「未来」が赤い光を放った。
「困ったぞ〜 また、モニターの青年が行方不明になってしまった。」
「だから、あれほど詳細な説明書をつけたのに見ていないんだな。」
「この商品はナビではなく、機械の長時間の骨伝道による意識障害のモニターなのに。」
青年は「未来」と一緒に放浪を始めた。
ポケットの「未来」は怪しく、赤い光を放った。- [16]Kelp 06/08/28 13:11 mFBLD/VYbB
- 玉鬘 06/08/28(Mon) 12:49 [×]
二つに分けます。
『鏡』『カーナビ』『放浪』
ルームミラーに目をやる。続けてサイドミラーにも。一瞬、視線を感じたからだ。
この時間だ。こんな辺鄙な所だ。他に走る車はない。人影もない。当然だ。
僅かに曲がっているミラーを調節する。そうだ。これは彼女の車だった。助手席をちらと見る。
彼女は流れ去る車外に顔を向いている。セミロングの髪が横顔と首を覆い隠しているが、目蓋を閉じた穏やかな表情は窓ガラスに映っている。眠っている。
俺は恋人を殺した。
確かに愛していたし、結婚も意識していた。一度も憎んだ事はなかった。一瞬として憎んだ事はなかった。
すれ違いに始まり、口喧嘩、罵り合い、彼女の死が幕を閉じた。何らかの罵り言葉が俺の意識を吹き飛ばした。彼女の最後の罵言とともに、前後の記憶は消え去った。ただ、助手席でぐったりとして動かない彼女の白い首に、赤い手の跡があるだけだった。
彼女のどのような言葉が俺に彼女を殺させたのだろうか。
久しぶりに交差点が見える。突然の女の声。俺は身を強ばらせ、急ブレーキを踏むが、すぐに気付く。
『100M先で右折します』
カーナビの案内音声だ。抑揚の無い声で誰かに話し掛けている。そうだ。これは彼女の車だった。方向音痴だった彼女の車だ。
路肩に寄せ、停車する。一通りいじるが、カーナビは頑として右折を促す。俺は機械音痴だ。
だが、そうだ。俺はどこに行こうとしていた? カーナビが突然独り呟くまで、俺は半狂乱になっていたようだ。何度も通った、一人暮らしはできても離れられないという彼女の地元を放浪していたのだ。
どうしよう。とにかく、だ。彼女を隠さなければならない。幸いドーナツ現象の外にある土地だ。人目につかない場所はいくらでもある、人がいないのだから。
俺はカーナビに降参し、ギアシフトする。滑るように発進し、流れるように左折する。彼女がどこに行こうとしていたのか知らないが、右折すればドーナツに近づく。 - [17]Kelp 06/08/28 13:15 mFBLD/VYbB
- 彼女を抱え、薄汚れたガードレールを跨ぐ。さくさくと枯葉を踏みしめ、日々下がる気温に身を震わせた。すぐに現れた下り傾斜の前で彼女を横たわらせる。土色の頬を撫でた途端に彼女の最後の言葉を思い出した。
彼女に言わせれば、俺の言葉は何もかも信じられないのだそうだ。彼女の誕生日に会えなかった事、なかなか彼女の家族に挨拶へ行かない事、ささやかな悩みを打ち明けても気の無い返事。それらの事が、ずっと欲しかったアクセサリーを買うという約束、次に会う日、妊娠したら結婚するという言葉に不信感を持たせるのだ、と。
あんたは口だけなのよ。
そんなつまらない言葉が彼女を殺させたのだ。
本当だったんだよ。
俺は心の中で呟き、彼女の体を一押しして後は傾斜に任せた。振り返り、彼女の車に戻る。この車も元に戻さなければならない。俺は彼女が一人住んでいたマンションに車を走らせる。
確かに安給料の俺には難しいが、アクセサリーは確かに買うつもりだった。妊娠すれば結婚するし、それまでには彼女の家族に挨拶へ行くつもりだった。
カーナビは諦めずにこの車をどこかへ誘う。
彼女が最後に行こうとしていた場所――あるいは行った場所――に行ってみようと思う。案内に従い、交差点を直進する。
俺は未来図を持っている。妻という名の恋人と二人の子供に囲まれた暖かなヴィジョンだ。俺は、彼女の言葉で俺の未来、それはすなわち俺自身を否定されたのだ。
ドーナツの端辺りに着いた時、
『目的地に到着しました』
という案内音声。建物はいくつかある。どこが目的地なのか分からない。所詮は機械、アバウトなものだ。
俺は液晶画面に表示された正確な住所を読み、車外を眺める。助手席側に明かりの消えた煉瓦造りの建物がある。掲げられた看板には電話番号とともに住所が印されていた。産婦人科病院だ。
彼女の罵言を思い出す。俺の暴挙を思い知る。
未来を否定したのは俺だったのか。
玉鬘さんからの代理投稿です。
私もこれから読ませていただきます。 - [18]equilibrium 06/08/29 07:49 IzdLf8UMap
- 以前、先んじられた作品を。
出遅れ常習犯のequilibriumとお呼び下され。
「猫」 「指輪」 「長い階段」
私の左人差し指に輝くこの指輪、それは私が砂漠で拾ったものだった。
キャラバン隊が一晩キャンプしたリビア砂漠のど真ん中。
青白く光るどこまでも連なる空と砂のシルエットに、それが満月の光を
浴びて輝いていた。
持ち主を失ったその指輪。砂の中になかば埋もれかかったそれを
ゆっくり拾い上げて月の灯りで眺めてみた。珍しいデザインだ。
かなりデフォルメされているが、どうやら猫が形どられているようだ。
右目が緑で左目が青の石で出来た猫の指輪。
スークの中をぶらついている時、黒いヴェールで全身を隠した女性が
すれ違いざまに私の左腕を掴んで囁いた。
「この指輪は不吉。元のところに返すが良い」
私の反応を待たずして彼女は人ごみの中に紛れて見えなくなった。
妙な女だ。こんなに込み合っているスークの中でどうやって私の
指輪に気がついたのだろう?
暫く歩くと、人が全く居なくなってきた。
両側に高く聳え立つ白い壁に圧迫されるような細い路地の白っぽい土。
ぎらつく太陽が白に反射して眩しい。
そんな白だけの空間に一際目立つ黒猫の姿。猫は廃墟となった建物の
二階の窓から此方をじっと眺めていた。あんなに遠くにいるのに、
何故だかその猫の目の色がくっきりと見える。右目が緑で左目が青。
廃墟の扉は開いている。覗くと長い階段が上へと繋がっている。
上方から猫の鳴き声がする。白い石で作られた古い階段を登って行くと、
上方の階段を登りつつある猫が居た。振り返って私を見つめた両目は
やはりこの指輪と同じく、右が緑で左が青。
私はもっとよく見ようと猫を追い掛けた。逃げ出して上へ駆け上がる猫。
猫を追い掛けて、螺旋状に長く続く階段を勢いよく走る私。
しかし変だ。
二階建ての建物にしてはこの階段は長すぎる。
そう思った瞬間、曲がりざまにいきなり途切れた足元に気付く余裕もなく
私はゆっくり落下し始めた。
落ちつつある私の目に映った最後のものは、廃墟の長い階段のエッジで
黒猫を抱く黒いヴェールの女と、眼下に広がる広大なリビア砂漠だった。
何故か誰も次のお題を出さないので、私が。
お次は「図書館」「陰謀」「秘密結社」で宜しく。 - [19]equilibrium 06/08/29 07:58 IzdLf8UMap
- 訂正:
× 暫く歩くと、人が全く居なくなってきた。
○ 暫く歩くと、人足が完全に途絶えた。 - [20]シノプス 06/08/31 02:11 OBLt5VvZSL
- 「図書館」「陰謀」「秘密結社」
埃をかぶったテーブルやらパイプ椅子やらをあらかた片付けてしまうと、先輩は宣告通り
清め祓いの儀式を始めた。科学部から借りてきた白衣(狩衣の代わりらしい。
なぜ狩衣と言ったら人は白ばかり思い浮かべるんだろうか)に身を包み、燭台に立てた
いくつものキャンドルの灯りの下(これだけで何かいかがわしい秘密結社のアジトのような
雰囲気が出るのだから不思議だ)、足を引きずるような奇妙なステップを踏みつつ、
小さく何かを呟いている。おそらく呪文か何かだろう。後で聞いた所によると、
それは「ヘンバイ」という、道教だか何だかの呪術儀式の一種だそうだが、正直そんな事はどうでもいい。
先輩は張り詰めた表情で、一歩一歩を踏みしめるように進みつ戻るを繰り返している。
儀式はまだ当分終わりそうに無かった。
それにしても。闇の中、あたり一面に整然と並ぶ書架の群れを前に、僕は思った。
確かに、お祓いでもしておかないと、出そうだ。この場所は。何かこの世ならざるものが。
図書館の地下、ただでさえ薄暗い書庫の、そのまた最奥部の一角というのが、生徒会から
魔術研究同好会に与えられた「部室」であった。
部室棟には何部屋か空きがあったし、無ければ無いで一般の教室を利用すれば良いにも拘らず、
あの生徒会長は敢えてこの人外魔境を指定した。まあ、どこから見ても何かの陰謀、というか、
ストレートな嫌がらせだったのだが、呆然としている僕をよそに、先輩はただ一言、
「カタコンベみたい。すてき」と呟き、それで全てが決まった。
それにしても。再び僕は思った。あれは果たしてウィットに富んだジョークだったのか、
それとも本当に頭がおかしいのか……僕には判断がつきかねる。
先輩がゆっくりゆっくりとステップを踏んでいる傍らで、風も無いのにキャンドルの炎が揺れている。
儀式はまだ終わらない。
次は「金属」「星」「管」で。 - [21]Kelp 06/08/31 13:37 R8O1fTmsFK
- 長い事、離れた故郷へ僕は戻って来た。
高校時代から軽音部に所属しサックスを吹いていた僕は大学の2年に上がる前に親にも内緒で学校を辞めた。
バイトで吹いていたサックスを見込まれ、仲間達と共に米国へ行ったのだった。
怒る父を母がなだめ、一人前になるまでは帰らないと言う約束で僕は旅立った。
前途には開けた世界が待っている…と信じていた。
ところが現実はそんなに甘くない。
僕くらいに吹ける奴等はウジャウジャいて、どこへ行っても短期の間に合わせばかり…
仲間達とも音楽に対する違いや経済的な理由で次第に険悪になった。
僕は自分の音を見失っていた。
一人、公園で吹くサックス。
命を与えられるはずのそれはただの金属の塊でしかなくなっていた。
「家に帰りたい」そう思う日が続くといてもたっても居られず日本への便に飛び乗る。
そして今、僕はここにいる。懐かしい故郷の空港。
事前に何の連絡もせず家へと戻る。
玄関のドアを開けるつもりで鍵を探すと隣家の主人が急いでやってきた。
「今ならまだ、間に合うかもしれない。早く!」
母が半年も前から入院しているのだという。
誰も知らせてこなかった。もはや助かる見込みの無い病…
病院の場所を聞き荷物を庭先に放り投げたままタクシーを拾う。
病院で母は人工呼吸器と点滴の管を体中につけ、意識は無かった。父が僕の肩を抱く…
連絡を拒んだのは母だった。
母は苦しげでも無くただ息をついていたが僕がそっとその手に触れるとフッと呼吸をし、永遠に去った。
それから一年が過ぎた。
僕はサックスで地元のイベントに参加している。
『星の下のジャズフェスティバル』
母に届けとサックスを吹く。
体中から熱い想いが込み上げてくる。
どこで吹いた時よりもその音は伸び空へこだまする。
今夜の音が最高だ。誰にも出せない僕の音…
そして僕はその夜を限りにサックスを捨てた。
次のお題は『帽子』『瓦』『谷底』で。 - [22]yassan 06/08/31 20:46 *Y1gESPhTjUy*SlxHBbXOjS
- 「帽子」「瓦」「谷底」
ニューオリンズは見捨てられたんだ。
そう、昔も今も何も変わっちゃいなくて、そうだと知っていても泣けるのさ。
凶暴なカトリーナだったが、俺達をやっぱり黒人だと知らしめたんだ。
不運の谷底だって? 何言ってんだ、これを不運として片付けたいのか。
大統領は来たらしいが、俺達は誰も「彼」を見ていない。
テレビに映った事だけは事実だがね。
俺達を哀れんでくれたって?そんなもの、何の役に立つと言うんだ。
大事なのは行動で示すべきだし、家の修理に一体いくら援助してくれというんだ。
最初の話から半分以下に下げられて、一体何が出来る?ここに俺達以外に誰がいる。
何、修理の材料の瓦がある? お前は日本人か。なら、白髪の首相に言ってくれ。
エルビスばかりが音楽じゃないと、俺達の音楽を知らないのだろうってね。
まぁ無理だろうね。これだけは言っとくよ。これからはお気の毒になるってね。
何故だって?いやいや君達の親切は筋金入りさ。見てて笑いが止まらない。
あぁ 気に障ったら、許してくれ。笑わなきゃ この状況ではやって行けないのさ。
俺達は帽子をかぶり、壊れた家の前に座り込んではいるが、
ただ哀れみを待ってはいない、いつまでも俺達は待ってはいない。
テレビの映像を見ながら、こんなことを想像する。
吹き出る憎しみが新たな憎しみを生む世界に、平穏な治安とテロの撲滅は難しい。
次は「擬態」「秀才」「無臭」でお願いします。 - [23]Kelp 06/09/01 07:49 R8O1fTmsFK
- 『帽子』『瓦』『谷底』
昨日訪れた台風は夜のうちに去り、空はさっぱりと晴れ上がっていた。アブラゼミやクマゼミがけたたましく喚き立てる。
仄かな湿気と気怠い雰囲気、降り注ぐ陽光に夏――というよりは夏休み――を感じる。私は濡れた下草を踏み、縁側に腰掛ける。空から聞こえる作業音に耳を傾ける。
台風六号は我が家に甚大な被害をもたらした。人生初の雨漏りだ。原因は屋根瓦の損壊だ。
もちろん大工である父の出番だ。普段は働く姿を見せられないからか、張り切っているようだった。仕事モードなのだろうか、ただでさえ寡黙な父は『話し掛けるな』という雰囲気を作り出していた。梯子を立て掛け、意気揚揚と屋根に登っていった。
私は下草を踏みつつ、縁側に寝転がる。頭だけでも屋根の影へ隠し、ワンピースの襟元で扇ぐ。今時クーラーもない家に住む私は不幸に違いない。手提げ袋を開き、谷底をただ見る。読書感想文か。面倒臭いけど、そろそろ行こうかな。
母がぱたぱたと小走りでスイカとウチワと麦藁帽子を持ってくる。今時麦藁帽子。父と同じ麦藁帽子。スイカのために起き上がった私の頭に麦藁帽子をかぶせた母が言う。
「はい。図書館に行くんでしょ。あんたすぐに熱射病になるんだから」
続いて父にも声をかける。修理を終えてから降りてくるらしい。
スイカにかぶりつき大きく頬張った。よく冷えてて甘い。含んだ種を庭に勢い良く吐き飛ばす。
「じゃあ、行ってきます」
スイカを吹きそうになりながらいってらっしゃいと言う母を残して、私は夏の中に飛び出す。思い立ち、振り返り、屋根の上を見上げ、両手をメガホン代わりに叫ぶ。
「お父さん。行ってきます」
父は麦藁帽子を少し上げて額に浮かぶ汗を拭い、遠慮がちに手を振った。
出遅れましたが…
玉鬘さんからの投稿です。 - [24]Kelp 06/09/02 08:13 R8O1fTmsFK
- 玉鬘さんからの投稿です。
『擬態』『秀才』『無臭』
僕はイジメられている。気付くのが遅かった。初めに何に何をされたのかは分からない。もしかしたら、あの無くなったシャープペンシルかもしれないし、床に落ちていた上履きがそれかもしれない。
原因はさらに分からない。大して目立つことをした覚えはないし、誉められた事も貶された事も数えるほどしかない。僕は平均的小学生だ。
シャープペンシルや上履きを隠されてもそれほど辛くはなかった。探せばすぐに見つかったからだ。机や教科書に落書きをされても辛くはなかった。誰の机にも落書きはあるし、教科書は先生に借りられる。
実際、誰にイジメられているのかも分からず、クラスメートとは普通に付き合っていた。イジメられているという実感が薄かった。
しかし親に知られた。教科書を見たのだ。早速、教師に連絡をし、教師はHRにそれとなく注意し、僕へのイジメはエスカレートする。悪循環だ。殴る、蹴る、唾を吐きかけられる、脅され金をむしられる。
主犯はクラス一、学年一の秀才。美男子で運動神経抜群、下級生への面倒見もよく、教師連中に大層気に入られている。数種の習いごとをこなしながらも、そつなく友達と付き合える。彼を嫌う者は皆無だ。誰もが彼と仲良くなりたがる。非の打ち所の無い人間だ。格闘技も習っているのだろう、一撃は重く、的確に急所を突く。一度など気を失った。失神する直前の彼の言葉が嫌に耳に残っている。
飽きた。
無視される事がこれほど辛いとは思わなかった。相変わらずイジメは継続されるようだ。誰に話し掛けても返事はなかった。まるで道端の小石に擬態したような気分だ。誰にも影響を与えられない事がこれほど辛いとは思わなかった。まるで無味無臭の空気。僕は存在しないに等しい。
クラスを眺め、僕は思う。
まるで死んだような気分だ。
お題は任されたんですが一応書いた方の特権?なので前回のままで。
eさん、待ってます。 - [25]equilibrium 06/09/03 09:39 nnouvINeLo
- まいど。出遅れequilibriumです。
『帽子』『瓦』『谷底』
一
私の家は崖の淵に位置していた。崖はストレートに
深い谷底に達していた。庭でボール遊びをしていて、
何度も、ボールを谷底に落としてしまっていたから、
きっと谷底には、何十個もボールが転がっていること
だろう。
弟と私は屋根の瓦の上に寝そべるのが好きだった。
ある夏の日、いつものように瓦に寝そべっていた弟と
私は、ほんの些細な事で口論となった。口論で感情的
になった私は、考えなしに弟を突き飛ばし、それは彼
を瓦の上から谷底へ落下させ命を落とす結果となった。
それから以降、両親は日々泣き暮らし、家庭は上手く
いかなくなった。私は何度も自分もこの谷底に落ちて
死のうと思った。死んで罪を償おうと思ったのか、
この辛い罪悪感から逃れようと思ったのか、本当の
ところは自分でもよく分からない。
しかし谷底を見る度に、また、両親の悲しそうな顔を
見る度に、自分もそこに落ちて消えてしまいたいと
真剣に思った。
何の罪も無い弟を死に至らしめた私が、何故こうして
のうのうと生きながらえているのか、そんな自分が
どうしても許せない。こうして生きていること自体が、
彼の奪われた生への裏切りであるかのように思える。
実際に崖の淵に立ったこともある。だがどうしても、
あと一歩を踏み出す事が出来なかった。死への恐怖、
そして、自分さえも死んだら、両親を更に悲しませる
だろうという思い。 - [26]equilibrium 06/09/03 09:39 nnouvINeLo
二
しかし今日、ついに私は決意した。
これ以上苦しみ続けたくはない。私は最後の一歩を
踏み出した。一瞬身体が軽くなり、光の中に包まれた。
次の瞬間、私は全身打撲の痛みに包まれて、冷たい
谷底に横たわる自分を意識した。酷い激痛だ。
どうやら骨も折れているらしい。
暫くそこでじっとしていると、目線の先に様々なもの
が見えているのに気がついた。沢山のボール。あの頃
の思い出を封印したまま転がっている。
そしてその先に、あの日、瓦の上で弟が最後に被って
いた麦藁帽子があった。
それはあの時以来ひっそりと、ずっとここにあったのだ。
クレマトリアムで焼かれ煙となって消滅したのではない。
それは確かに、ずっとここにあったのだ。もしあのまま
死んでいたら、谷底からずっと私を見守っていてくれた
彼の帽子に、私は永遠に気付かぬままだっただろう。
私はその帽子に手を伸ばし、しっかりとそれを掴んだ。
次のお題は「東京」「ロンドン」「雨」で宜しく。- [27]equilibrium 06/09/03 09:53 nnouvINeLo
- 追伸:
第一段落目、「谷底」って語が連続的に
3度も出て来て見苦しいので、以下のように修正します。
書き込みボタン押す前に気付けって(自虐笑)。
私の家は崖の淵に位置していた。崖はストレートに
深い谷底に達していた。庭でボール遊びをしていて、
何度もボールを落としてしまっていたから、きっと
あの谷底には、何十個ものボールが転がっていること
だろう。 - [28]equilibrium 06/09/03 09:55 nnouvINeLo
- 今度は「ボール」って語が3つも、、、
きりがないので、もう止めた(笑)。 - [29]封真 06/09/03 14:39 4e8qrf97l4
- 目が覚めると、部屋は薄暗い。外からざわざわとした話し声が聞こえる。おそらく、雨が降っているのだと思う。そういえば確かに肌寒い・・・・・・昨日偶然見た天気予報、気取ったニュースキャスター達は、まだ冬には程遠いというのに、最近は気候がよくおかしくなりますね、一昨日の東京なんて行き交う人達は皆長袖を羽織っていました。温暖化はやはり、確実に悪化しているようですね、などと笑顔で話していた。
枕元においてある時計は、いつからか役に立たない、もう三週間も僕は時計など見ていない。目を覚ますのは時間じゃない、僕が夢に拒絶を現す為だ。
今日の夢はとても楽しかったのに、まだ話は終わっていない。何処かの果てしない浜辺を、僕はたった一人裸足で散歩していた。僕は海が嫌いじゃない。海も、僕を求めていた。
いつかロンドンに旅行に行った時、家族に無理矢理連れて行かれた僕はずっと下をうつむき、長い間気分も冴えずにいた覚えがある。慣れない異国の風景に見入る事もなく、今思えば随分もったいない事をしたと思う。ただ港を見た時、さほど綺麗ではなくとも気分を取り直し、やっと旅行を少しはエンジョイしようという気分になれたのだ。そのあとはアメリカに行ったのだけど、壮大な土地に驚かされた。イギリスの人も日本の人も、まさかあんなに海までが遠いなんて思わないだろうな。
一ヶ月前、医者に鬱病依存者だと告げられた。まだ重度には至ってはいないが、軽視は出来ない、これから徐々にエスカレートしていく可能性は大いにありうるので、処方箋を求めなさい。あなたのお宅のすぐ近くにある病院の住所を載せておきます、ここに定期的にカウンセリングとして、通うと良いでしょう。
薬は必要ない、と僕は言った。薬に頼る気はない、断固拒否するよ。でも、相談は受けさせて欲しい。何しろ僕には話し相手が居なかった。友達とは、誰とも好みがあわず、どいつも思考が甘いんだ。
「君はどうしてそうも、否定的なんだ」
ある友人は言う。だけど、僕が説明してきた事柄、君のその対応の一挙一動を撮ってみても、彼が適切な答えを返していたとは思えないよ。君は知らなかっただろ、なのにわかるように肯いてさ、結局何を話しているかも理解していなかったんだね。
僕が否定的なのは、僕が否定的だからじゃない。今の世の中が、否定すべき事で溢れかえっているんだ。君は幸福な家でぬくぬくと育ち、とりあえず自分の生活にゆとりがあれば笑っていられる。そんな君を、僕は羨めない。これも否定的?いや違う。
貧しきものは幸いなり、ことわざは唯一真理を語っている。独りで過ごしているからこそ、見えてくるものも多い。権力やお金で物事を操ると、現われるのは欲望だけ、僕はそれを嫌悪してやまない。
僕は服を着替える、そして鏡に数字を書き記す。薄暗い中で、鏡の中の僕はせせら笑っている。ふっと表情を戻したかと思うと、差し伸べた手を急いでひっこめるんだ。一昨日は数字を消してしまったから。
部屋をざっと見渡した。生活感のない、殺風景な個室。だけどやりたい事は沢山あった。・・・夢ばかり膨らませすぎてしまったのは・・・・・・・・・まぁ、僕も甘いね。
ここは僕が買い取った部屋だから、当然誰の迷惑にもならない。新しい場所へ引っ越しても、ここが憩いの場である事は変わらない。ただ一つ、僕は両親に言いたかった。言葉を覚えといてくれよ、って。
僕は世界を変えたいと思った。不幸の人々、哀れな若者達、苦しまされた・・・多くの生き物達。母さん、僕は楽しんでいた事なんかないよ。本当に辛かったんだ、いつでも、いつでも。でも、結局はエゴの塊みたいなやつだったのかもしれない。
そして再びベットへ戻る。予定通りに、僕は一分後に首を通す。ロウソクの火のように、僕はどこかへ消え去る。涙を流せたのは、とても嬉しかった。 - [30]封真 06/09/03 14:42 4e8qrf97l4
- 読み返しても居ない適当さですが勘弁を(汗)
次のお題は「青年」「希望」「猫」 - [31]yassan 06/09/03 19:16 *Y1gESPhTjUy*SlxHBbXO1A
- 「青年」「希望」「猫」
青年にとって、暮らすというのは希望通りにならなかった。
例えるなら猫、気紛れな猫の性質というのでしょうか。
人を必要とすれば女を思わせる最高の甘え方を見せるが、
不要なら顔すら見せることが無いのだ。
だから、少し距離をおいて付き合うのが利口なのです。
青年は巧みに甘える女に愛想を振りながら、
彼の好みのプラトニックラブには難しいと感じた。
寝室のドアを重たく感じる青年であった。
次は「赤とんぼ」「キー」「香料」でお願いします。 - [32]Kelp 06/09/04 18:08 R8O1fTmsFK
- 玉鬘 06/09/04(Mon) 17:59
『赤とんぼ』『キー』『香料』
ここに来て初めての秋が訪れた。
私は、座卓の前に座る娘の横顔を見つめる。一年前と比べたら目覚ましい程の変化だ。年中青白かった彼女の血色は暖かみを得た。
彼女は剥いた梨に爪楊枝を刺し、夕日に染まる秋色をぼうっと眺めている。まだ時折集中を途切らせる事もあるが、確実に丈夫になっている。
赤く熟した山陵からそよと吹く風が部屋に薫る。天然の香料も、あるいは彼女の健康の一助になっているのかもしれない。
夕焼小焼の赤とんぼ……
彼女が消え入りそうな擦れた声で赤とんぼを歌い始める。庭に目をやると夕明かりの中、三匹の秋茜がすうっと飛んでいる。時折キーを外した彼女の歌声に心が安らいだ。
「蝉。鳴かなくなったね」
彼女の唐突な言葉に一瞬戸惑った。既に一ヵ月以上前には鳴き止んでいる。私は時々彼女を心配する。
「そうだね。寂しくなる」
彼女は押し黙り、瞳は秋茜を追っている。皿の上の梨は無くなっていた。
何を考えているのだろう。死、だろうか。一時死の淵に近寄った彼女は敏感になっているのかもしれない。思えば、今年の蝉は彼女と同じ年月を生きていた。
私は両手を伸ばし、彼女の小さな手を包む。彼女の瞳は秋茜を離れ、私の瞳を真っ直ぐに捉える。
玉鬘さんからの投稿です。
多作ですね。負けていられない?(笑) - [33]Kelp 06/09/04 18:11 R8O1fTmsFK
三題話を書いたのですが、三題を書き忘れたので。
『フライパン』『ふっくらと』『不意』- [34]yassan 06/09/05 15:10 *Y1gESPhTjUy*SlxHBbXO7.
- 「フライパン」「ふっくらと」「不意」
子供が小さかった頃、子供にある友達がいた。それは、ごく普通のありふれた光景だった。
ただ、元々の父親同士が友達だったことを子供は知らなかった。長年住めばそういうことだってある。
私は彼の顔が人よりは大きく思えて、彼に「フライパン君」の愛称をつけた。もちろん、友人は知らない。
当時の人気テレビにアンパンマンがあったのだ。「可愛いね。」妻との会話にのみに出てくる彼の名前になった。
彼は当時からチック症が出ていて、私は彼の過程環境をちょっと心配もした。だが、彼の優しく大らかな
態度に私達はそれ以上の危惧を感じなかった。頑固な私の子供の扱いも上手で、彼の態度は常に優しかった。
それぞれに道はあり、二人にも道は分かれていた。いつか、疎遠になった二人は遊ばなくなった。
親同士が久し振りに会った夜、久し振りに「フライパン君」に会った。もちろん、愛称は秘密にしてる。
以前に比べて顔がふっくらとしているが、目つきが厳しい。それより、チック症が激しくなっている。
私はそのことに何も触れず、昔の事を話し続けた。
数日後、妻に「フライパン君」に会ったと言った。
「あのね。フライパン君なんだけど、受験に失敗して荒れてるんだって。家庭内暴力。」
「え、そんなに酷いのか?」
妻の不意の話しに動揺した。友人が何も語らずにいたことを私は少し考えてみた。
そうだったんだ。疎遠になったのは父親同士の私達だと気がついたのだ。
次は「駐車違反」「窒素酸化物」「メンテナンス」でお願いします。 - [35]yassan 06/09/05 15:15 *Y1gESPhTjUy*SlxHBbXOCM
- 訂正
私は彼の過程環境を ×
私は彼の家庭環境を ○ - [36]理子 06/09/05 21:06 1k6.lOFCFs
- 「フライパン」「ふっくらと」「不意」
明かりをつけて、テーブルに鍵を置いた。といっても、テーブルの上は空いた酒缶で埋め尽くされていた。
フライパンだけがここにいるよとコンロの上で鎮座していた。
いらないから置いて行ったのか。ないと困るだろうと最後の優しさを見せたつもりなのか。
オムレツを作るのが上手な女だった。
「卵にサラダ油と牛乳を加えるとふっくらと仕上がるの」
フライパンの柄を叩くようにして卵を丸める腕前は、いつも手品を見ているようだった。もう随分前のことだ。
「こんなに広かったんだ・・・」
家具のほとんどがなくなった部屋を見渡す。
女は出会い系かなんかで知り合った男の元へ行ってしまった。
もっと優しくしてやればよかったと今更ながらに思う。
不意に電話が鳴った。すぐに留守番電話に切り替わり、聞き覚えのある声がした。
「千佳いるの?荷物ついたけど・・・。祐さんどうなってるの?連絡して下さい」
義母の声の後ろで、義父が「代われ、代われ」と言っているのが聞こえて切れた。
足元にはくしゃくしゃに丸めた紙がころがっていた。広げてみた。離婚届だ。判もある。
男じゃなかったということか?
つっ・・・頭を抱えて座り込んだ。昨夜の記憶が戻ってきた。
罵る声、鼻で笑う、鬼、悪魔、フライパン・・・
寝室に入りクローゼットを開ける。ごろんと音をたてて千佳が転がってきた。
般若のような顔。
「あなたとはもう死んでもいや」
確かにそう聞こえた。 - [37]理子 06/09/06 14:42 1k6.lOFCFs
- 「駐車違反」「窒素酸化物」「メンテナンス」
完成だ・・・
立ち上がり、設計図を少し離れた位置から見てみる。
完璧だ。この車が市場に出ると凄いぞ。
オイルもガソリンも要らないから排気ガスなんてものは出ない。つまり窒素酸化物が出ないから環境にもやさしいというわけだ。電気や電池のように充電する必要もない。メンテナンスといっても車検ぐらいのもの。
これは大発明になるかもしれないぞ。
エネルギーは・・・
おっと、企業秘密だ。今はまだ口に出しては言えない。
コーヒーを口に含む。
「旨い!」
至福の時間だ。
明日は実加に会ってやろうとするか。最近は忙しくて、ろくに相手をしてやれなかったからな。寂しい想いをさせてしまった。
そうだ、これが成功したらプロポーズしよう。新婚旅行は世界一周だ。
「・・し、ひろし起きなさい!遅刻しちゃう」
「ママァ〜」
「あっ、またコーヒー飲んだのね。眠れなくなるからダメって言ったのに。すぐパパの真似をして」
「ごめんなさぁい。あ〜ん」
「ほらほら、お顔洗って。」
「車で送って・・・」
「ダメよ。幼稚園の前に駐めると駐車違反になっちゃうから。ほら実加ちゃんも待ってるよ」
机の上にはクレヨンで描かれた車の絵と、コーヒーカップが朝の光を受けていた。
次は「壊れた時計」「橋」「雲」でよろしくお願いします。 - [38]yassan 06/09/06 18:48 *Y1gESPhTjUy*SlxHBtVBYL
- 「駐車違反」「窒素酸化物」「メンテナンス」
男は車のマフラーの排気ガスをホースにつないで窓から車内に引き込み始めた。
昨日の夜、男は飲酒運転で人を殺めてしまった。取調べを終えたのは夜になっていた。
公務員の男は懲戒免職により解雇される。本当に馬鹿な事をした。悔やんでも遅いのだ。
車は高機能と燃費の良さで欧州の新型のディーゼル車を買ったので、国産の排気ガスとは違った。
手元に酒があった。酒が原因の飲酒運転事故で、また酒を飲んでの自殺かと自分を笑った。
やはり自殺は怖いらしく男は酒を一気に飲んだ。車内にガスや窒素酸化物が充満して意識が消えた。
突然、窓ガラスが割られて、男は路上に引きずり出された。明るい朝の日差しの中に警官が立っていた。
「何をしているの、自殺を計ったようだが?」男は黙っていた。
「この車のメンテナンスは排気ガスを有毒にしないので死ねないの。ちょっぴり苦しいけど。知ってた?」
警官の説明に男は自分の車の無知に愕然とした。
警官は書類に何かを書き込んでいった。
「はい、じゃあ これにサインしてください。」
「で、この金融機関に反則金を振り込んでくださいね。」
「なに?一晩中ここに駐車したでしょう、だから駐車違反でキップ切ったんですよ。法規知らないの?」
警官は男は路上に放置したまま、立ち去った。 - [39]yassan 06/09/06 18:53 *Y1gESPhTjUy*SlxHBtVBYL
- >38 訂正
警官は男は路上に放置したまま、立ち去った。 ×
警官は男を路上に放置したまま、立ち去った。 ○ - [40]yassan 06/09/06 21:03 *Y1gESPhTjUy*SlxHBtVBYL
- 「壊れた時計」「橋」「雲」
1945年8月6日
元安橋の上空にきのこ雲が現れて。
本通り商店街に壊れた時計を残す。
母の名を冠したエノラゲイを再生。
再生こそ戦火の幕開けに過ぎない。
憎しみは憎しみを生み恐怖を呼ぶ。
恐怖の連鎖には民は耐えられない。
民の恐怖は新たな火種を生みだす。
その意味では世の中は公平なのだ。
下した事実から下されるのである。 - [41]Kelp 06/09/10 23:28 nHM7OzcQ5j
- この橋の上でまた会おうと貴方は言った…
来年の今日、それまで命があったなら。と私は答えた。
貴方は此処から遠く離れた都会で消防士をしている。
私はこの静かな田舎町で病気療養中。
私たちの結婚は私の病気が彼の両親に発覚した日から暗礁に乗り上げている。
初めての対面時にあまりにも緊張しすぎた私は発作を起こしたのだ。
私の心臓に欠陥があって私たちは多分、子を持てない…
それを隠しとおす約束が両親に知られてしまったのだった。
一年の間、私は自分の体と命を抱くように静かに規則正しく暮らした。
秋には枯葉を、冬には窓の外の雪を、春には花々が咲き乱れるのを
夏には青い空を行く雲を愛おしみ一年後のその日を迎えた。
一年間、一度の発作も起こらなければ彼の両親も許してくれると言うのだ。
そして私は何事もなく一年を過ごした。
9月11日。
約束の橋の上で彼を待つ。
時間には正確な彼がなかなかやって来ない。「遅くなるよ」の電話すらない…
昼が夕方になり夜になり私は彼を待つのをあきらめた。
家へ帰った私はテレビをつけて彼の来なかった理由を知った。
周り中で大騒ぎになっていた。
ビルの崩壊シーンが何度も映し出される
彼はその時、そのビルに居たと私は確信した。
それから1月後、私の元には彼の形見として最後まで彼がしていた私からのプレゼント…
壊れた時計が送られてきた。
私たちが会う、約束の時間でその時計は止まっていた。
次は「雷」「キャンディ」「熱帯魚」で。 - [42]yassan 06/09/14 20:07 *Y1gESPhTjUy*mo2vTbeo3f
- 「雷」「キャンディ」「熱帯魚」
水族館は子供連れの親には好都合なものと思っている。
夏の炎天下をさほど歩かずに済むし、冷房が程よく館内を冷やしている。
ガラスの向こうに涼しそうな顔で水槽を泳ぐ様は見てて飽きない。
できれば地味な魚では面白くないので、やはり熱帯魚あたりが派手で良い。
だが、奇声をあげて走り回る子供やペロペロキャンディを舐めるのは暑苦しい。
不運にも、そういう子供に遭遇したら、直ぐにその場を退散しよう。
子供に雷を落とすまでも無い、その日は涼しい一日を楽しむべきだ。
でも、決してガラスの向こうの魚なんぞになりたくないね。
次は「ベンチ」「影」「マンション」でお願いします。 - [43]Kelp 06/09/16 21:03 nHM7OzcQ5j
- 二人が住んだマンションを少し行くと、そこには木製のベンチが無造作においてあった。
何年か君と過ごしたこの街は今ではすっかり変わってしまって思い出は欠片も残っていない。
君が去ってから半年の間、僕は君を待ち続けた。
知っているのは君の名前と誕生日だけ…
朝の散歩の途中でよく見かけた君がいつか僕の部屋に転がり込んだ。
ベンチは二人が好きだった場所だ。
『結婚するのよ』
そう言い残して二度と現われなかった君を今でも時々思い出す。
君はどこに住んでいたのか、何の仕事をしていたのか…
聞き出すことが野暮に思えてわかっているふりをした。
あの頃の僕は若くて、未来を両手いっぱいに抱えていた。
他人の悲しみや苦しみには一切の興味がなくて、君には残酷だったかもしれない。
ベンチは今もそこにあった。
経った年月の分だけそれは古びていて、君ではない誰かが座っていた。
その年配の女性に僕は話しかけた。
『ここにはよく来られるんですか』と。
その女性は僕の顔を見上げると驚きを隠さない。そしてこう言った。
『あなたに良く似た人を、何年も待ち続けて…でもその人ももうお爺ちゃんの筈ね』
『ベンチは私が置いた物なの。ここに座るとたいていの人は帰って来ない…』
その女性がゆっくりと立ち上がる
その時、僕は気付いてしまった。その女性もまた帰れない人だったと言うことに。
その女性には影が無かった。
次は「空っぽのカバン」「月」「足音」で。 - [44]T 06/09/17 09:19 pFNBI12fS.
- 「空っぽのカバン」「月」「足音」
グロイです♪嫌な人はお題だけ目を通してください。
少年は殺人を犯した。被害者は10歳で同級生のある少女。
理由なんて得に無かった。しいて言うなら、顔が気に入らなかったからだ。少年のタイプではなかったからだ。
だからであろう。少年が石のブロックで、少女の顔面を破壊したのは。完膚なきまでに、粉々に砕いたのは。当然、それが死因となった。
「いや、殺すつもりは無かったんですよ」
そう言って、殺人小学生の恭平は、刑事の石田洋助に弁解した。
二人は、取調室の部屋の中で、机越しに向かい合って座っていた。
「ちょっと顔の形を崩してやろうと思っただけなんです。そしたら…なんていうか、死んじゃったんですね」
サラリとそんなことを言う少年の前で、洋助は宇宙人を見るような顔で
「恭平君、キミ、なんとなくで人を殺していいと思ってるのか?」
と、決まりきった質問をする。
「だってね、刑事さん、あいつの顔、満月みたいにまん丸じゃないですか。(笑」
は?と、洋助はフリーズした。
「だからなんか見てるとついむかついちゃうんですよね〜」
洋助が反応を示さないので、恭平は続けた。
「あいつだってあんな顔でこの先何十年も生きるんじゃ逆に可哀想ってもんですよ。だからさぁ…」
そして恭平は言った。
「アンタは死ねよ」
ブシュゥッ!
洋助の視界から光が消えた。一瞬、訳が解らなくなる。
しかし遅れてやってきた激痛によって理解する。
「ぐっ、目をっ、ナイフなんて何処に…」
既に持ち物を取り上げた、空っぽのカバンを思い出しながら、洋助は言う。
しかし、恭平は答えない。聞こえるのは、足跡だけ。
そしてその足跡は、徐々に刑事のもとへ近づいてくる。
「…つまらない質問しないで下さいよ。ナイフなんてケツにでも挟んどきゃあいい話でしょ?さすが日本だよね。そんなことより…」
恭平はナイフを洋助の首にあてた。
「あなた死体を見みたんですよねぇ?」
洋助はその質問の真意が解らなかったが、
「写真だけならな。それがどうした!」
そう答えた。そう答えて、そして叫んだ。
「あ亜アあぁあァ嗚嗚呼あああ亞ァああああ!!!」
ギリッ…恭平は、耳の根元をむしる様に、手とナイフを使って回転させた。
「アンタやっぱダメだ。ダメダメだぁ。アンタみたいなのは、死んだほうがいい」
ボキボキ軟骨が砕ける音、ギュリギュリ肉が裂ける音が、さすがに耳元でよく聞こえる。
「すみませんねぇ。安モンのナイフなんで、うまく切れないんですよ…ねッ!」
ブチッ!!
「ぎゃ嗚アああアあァ亜あィああ亜ぁあァあ!!!」
「ふゥ。やっと取れた♪五月蝿いからこれ咥えててね。」
もぎ取った洋助の耳を口に詰め込んで、恭平はかつて耳だった位置で
囁いた。
「死んだのはアンタの娘。石田真理子さんだよ」
洋助は、反応できなかった。
「あれぇ?聞こえなかったのかな?こんなに聞きやすくしてあげたのに。じゃあもっとよくしてあげる♪」
そう言うと恭平は、洋助の血にまみれた耳の内部を、伸びた爪を立てて、ジュリ…と、えぐるように穿りだした。洋助は悲鳴を上げた。
「ねぇ、刑事さん、ちゃんと聞いてください。何で僕が真理子さんを殺したと思います?顔が月に似ているからって、はは。そんな理由で、人を殺す訳なんてないじゃないですか。そんな理由で人は殺しちゃいけないんですよ?じゃあ僕は何で真理子さんを殺したんですか?それは簡単です。そんなのは簡単です。頼まれたからですよ。父の、アンタの顔に似ているこの顔を潰してくださいってね。真理子さんに、頼まれたからですよ。いいですか、刑事さん、子供はねぇ、自分の所有物じゃないんですよ。奴隷じゃないんですよ。無理やりセックスさせる生き物でもねぇんだよ!」
ザクリ。
最後に恭平は、洋助の頭をナイフで突き刺し、部屋を出た。
粉々にはしなかった。それは、きっと真理子が悲しむと思ったからだ。
「スッキリしないけど、死んでまで同じなんじゃ可哀想だもんな。」
そして恭平は、没収されていたもう一本のナイフを手に取り、今度は自分の胸にあてた。
まさか行き当たりばったりでこんなエグイものになるとは。すみません。
次は「夕日」「アルバム」「死神」でお願いします。 - [45]yassan 06/09/17 14:19 *Y1gESPhTjUy*mo2vTbeo..
- 「空っぽのカバン」「月」「足音」
夜更けの安アパートの廊下を足音も忍ばせて。
腐った木の床が叫ばないようにしよう。
自分の部屋に入る。
何も置いていない四畳半はとても広い。
月の灯りが畳の上に窓の形を映してキレイ。
その窓に空っぽのカバンをポンと放り出す。
仰向けになって、今日頑張った自分を誉めたんだ。
金が出来れば家に帰ろう。 - [46]yassan 06/09/17 14:28 *Y1gESPhTjUy*mo2vTbeoBp
- 「夕日」「アルバム」「死神」
幾つものアルバムに目を通していた。
古い背表紙のものは全てがボロボロだ。
そのほとんどに男の記憶は無い。
夕日がテーブルのアルバムを赤く照らし、
死神の無表情な横顔を照らす。
何も語らず。
次は「看板」「酒屋」「先輩」でお願いします。 - [47]Kelp 06/09/24 22:43 t3NNe2swcH
- 疲れ果てて、いつもと違う道を家へと急ぐ。
仕事にストレスを感じた時にはこうして時々迷子になろうとするのだ。
初めて歩く道なのに何故か懐かしい風景。
学生時代、先輩に連れられて行った怪しげな露地の奥…
その道はそこの景色と類似している。
夕闇の紫の空の下、黒い地に黄色の文字の看板、その明かりに飛び込む虫のように僕はその店に幾度も通った。
そこは母と同じくらいの歳の女性が居る店で、僕はその人の身の上話を聴くのが好きだった。
『若い時にね、とてもわがままな子猫を飼っていて』
『その子猫を置き去りにしてしまった…』
その人の言う『子猫』が本当の猫じゃなかったことぐらいその頃の僕にもわかっていた。笑うと右頬にえくぼの出る可愛らしい人だった。
確かこの先の角を曲がるとその店があったはず。。
胸を高鳴らせながら角を曲がると、あった。あの看板だ。
ところが
意に反してそこはただの酒屋だった。
初老の、もう可愛いとは言えない女の人がシャッターを下ろしている。
僕を見てニッコリ笑った。その頬にはえくぼがあった…!
それが右か左だったか僕は知りたくなかった。
迷子になるのはこれが最後だな。となぜか足取りは妻の待つ家へと急いだ。
次は「すすき」「飛行機雲」「さんま」で。 - [48]yassan 06/10/15 01:25 *Y1gESPhTjUy*2wkeBzwPYF
- 「すすき」「飛行機雲」「さんま」
県道から横道に入り、薄暗くて細い杉の木立を通り抜ける。
標識から何処に向かうか、それくらい分かるだろうというのか。
床を両足で踏ん張り、背中を座席のシートに押し付ける。
これから、相当な強さで体が振られる覚悟をしなければならない。
夕暮れの山道を車が駆け下りる。
前に走る車に追いついてしまい、しかたなく速度を落とし始めた。
彼は煙草に火を点けた。
全開にした窓から山の冷たい夕暮れの風がぶつかっていた。
助手席の窓からはすすきが見えている。薄暗いと汚く見えるんだ。
五月までは私も煙草を吸っていた。今は煙草の煙など吸いたくない。
何もかも変わったんだ。しかし、変わらなかったのは君だけだった。
両脇は山に囲まれたまま下りてゆく、僅かに青い空が細く続く。
飛行機雲? そんなものあるかい。
例え見えたとしても、もう会話などにしないだろう。
業務上必要最小限度な会話だけだ。
時間的に差は、ないみたいだね
あぁ、変わらん
山道を選ぶ理由が問題なのだ。それこそ、間違いなく君の答えなのだ。
別の道を選んだとしても時間的にそれほどの差は見つけられない。
そう、迂回路の緩やかな道路をゆったり走ってもだ。
同乗者に負担を掛け続けることなど、君にはどうでもいいことなのだ。
それが、君の答えだ。
誰かに質問をされた事がないのだろう。
抜け出したまっすぐ先は県道と合流していた。
右左折を何度も何度も繰り返して、見慣れた場所を確認した。
直線的な西日は風景を逆光で貫きながらテクスチャーを見せる。
半透明な白い煙があちこちから見える。ここは田舎なのだ。
何処の家もさんまを焼いている訳じゃないだろうに。
相変わらず何本目かの煙草に火に点けている。激しく咳き込みながら。
もう、止めたら
「人を変えることなど、出来はしない。
だけど、自分自身を変えることはできるんだ。」
そして、君は何も変えずに立ち去った。君の答えに反論はしない。 - [49]♪亜譜里織♪ 06/11/07 20:14 yPJNkSTlcg
- 「すすき」「飛行機雲」「さんま」
走れや走れ 旋(つむじ)のように
走れや走れ 街を駆け抜けろ
塀も飛び越えろ 屋根も飛び越えろ
走れや走れ 風をつん裂け
走れや走れ 野原を突き抜けろ
すすきが顔を叩いても 目を閉じるなよ
走れや走れ 目にもとまらず
走れや走れ 音も立てずに
飛行機雲に追い抜かれるなよ
走れや走れ 息が切れても
銜えたさんまは 落とすなよ
サザエさんに 追いつかれるぞ
次のお題は「赤とんぼ」「柿」「紅葉」の赤尽くしでどうぞ。 - [50]yassan 06/11/12 19:57 *Y1gESPhTjUy*SDmFPPFQph
- 「赤とんぼ」「柿」「紅葉」
赤とんぼに囲まれた頃
山の紅葉も見えていた
機械音の聞こえる頃
秋の気配を暗さで気付く
おすそ分けの熟した柿
我家の食卓に変らずにある
殺風景な田んぼ
懐かしくて、ならない
次は「酒」「B2」「ライト」でお願いします。 - [51]Kelp 06/11/12 23:57 JQnwKs41c0
- 長い冷却期間を置いて、別れようと決めた彼女と会う約束をした。
約束の場所はホテル最上階、夜景の見えるバー。
彼女は先に来ていて僕が近づくと軽くグラスを上げた。
いつものフローズン・マルゲリータ。
ダウンライトの明かりにキラリと輝く。
お酒を飲むといつも饒舌になる彼女も今夜だけは静かに僕の話を聞いている。
「君とこれ以上は続けられないよ…」最後の言葉に君は頷く、微笑みながら。
罵倒する言葉も涙も無いことに僕は何故か傷つく。
「送るよ。」
先を歩く君にそう言うと君は首を振ってこう答えた。
「この後、約束があるの…あなたと違って私を自分の世界にちゃんと連れて行ってくれる人と。」
彼女はその後、小さなビルのB2にある、およそ彼女には似合わない居酒屋に消えた。
別れの本当の理由はお金が続かなかったからだ。
君の世界に近づこうと無理に無理を重ねてしまった。
そんな僕が真実を晒すのを君はどこかで待っていたのかも知れない。
別れを切り出した筈の僕はなくしたものの大きさに、振られた男みたいに肩をガックリと落とした。 - [52]yassan 06/11/24 21:17 *Y1gESPhTjUy*jXtrWrPXl8
- 「酒」「B2」「ライト」
酒を水のように飲む頃もあって、その後は酒に飲まれる事が無かったり、
馬鹿をする時代があって、その後は案外とまっとうな生き方をしてたりする。
身の不幸を「運が無い」と耳にするが、ご立派な身分でいらっしゃる。
人生は山在り、谷在りですよ。良い事も悪い事もあるんです。
地上の50階や100階に上がることもあれば、B2まで下りることもあるはず。
自分の都合の良い解釈はお止めなさい。みっともない。
スポットライトは貴方の為にあるんじゃありませんよ。
だから、非を認めなさい。彼は裏切ったんじゃない。君に裏切られたんだ。
君は知っていながら、彼に命じたはずだ。その時に君の裏切りを彼は確信したんだよ。
君は彼にそう仕向けたんだ。「運が無い」のではなく、君が不運を招いたんだよ。
残念だ。
次は「ダウンタウン」「土曜日」「コーヒー」でお願いします。 - [53]好誠 06/11/25 22:58 EXhmTNmlc1
- 「酒」「B2」「ライト」(遅れ)
男は喫茶店で小さなノートにさらさらと何か書いていた。こうしていることが彼の学生時代からの
ちょっとした愉しみの1つだった。アベールという比較的大きな喫茶店で、様々な人種が行き交う
(例えば空港のような)こういったスペースにいると、自分の中の余白あるいはそれ以外のもの、
を、自然と素直に受け入れられるような気がした。
ノートは大きくても両手に収まるくらいのやや小さめのものが好ましいのは既に述べた通りだが、
ボールペンではなく鉛筆でもなくシャーペンを使うのも彼が心掛けていたことで、それも種類は製
図用の筆記時に線や文字が見やすいもの、芯は0.5のHBとまで決まっていたのだったが、この日は
訳あって少し濃いめのB2を使用していた。また、下敷きを使わないということも彼の以前からの流
儀だったが、社会に出てみると「下敷き」なんてものはほとんど存在していないも同じで、特に気
にする必要はなくなった。それを彼は少し淋しいと思った。
5時頃になると店内の明かりがふっと一段階暗くなり、すこし長居してしまったな、という気持ち
と、いい感じに時間を潰せたな、という気持ちが交錯する。ここで店を出るのが男にとって最もよ
くある行動パターンだ。さて今日はどうしようか、むろんいつも鬼のように筆記してるわけではな
く、持ち込んだ数冊の文庫をぱらぱらと読んだり、携帯を眺めたり、アイスコーヒーだって飲む。
コーヒーは残り3センチぐらいで、飲もうとすれば飲めるし、まだ居ようとするなら放っておくこ
ともできる。学生時代は、よく授業中にノートの端にいろいろ書いたものだ。恋愛や、正義や、自
由、虚無、なんてことに対する自分なりの考え、行く宛のない思想、詩、あるいは消しゴム、前の
席の人のパイプ椅子の素描、空想上の植物、幾何学模様。とても小さな字で、なんてことない内容
だったけれど、あの頃に書いたものが、今自分の血となり肉となっている、そう感じられるのだっ
た。幾分水っぽくなったコーヒーのグラスをカラカラと揺らす、と、天井の明かりが乱反射して、
茶褐色の水面(コーヒー面)に吸い込むような光の輪がてらてらと離れては繋がり、またひとつ
になる。それをストローですいっと飲み干して、彼は店を出た。
路上に出るとなんか肩の辺
りが双曲線を描いてクラウチングされるような気になる。みんなすっかんぴんで武装しているのだ
、あるいは武装しているのにすっかんぴん。男は少しフィルターを抜いて、一歩ずつ確かめる風に
街を歩く。ドラッグストアコンビニTSUTAYA雑貨屋イルミネーション100円ショップ銀行下着屋花屋
本屋ハンバーガーモスバーガーファミレス。否応なしに斬られていく、彼のすっかんぴんな肉体も。
けれどもう彼はそれを厭いはしない、ただ悠然と、チャコールフィルターの煙草を吸って、ひとつ
ひとつの気配を感じてる。流されない限り、どこまででも昇華することができる。今は無理でも。
そのときは無理でも。一人だけ白い息を吐く、キャミソールを着た美しい女がいる、だぼだぼのズ
ボンを履いたガラの悪い男がいる、香水の強烈なばあさんがいる、やせ細ったサラリーマン、ダン
ボールを運ぶホームレスがいる。昇華の氷雪で胸が締めつけられるのを感じて、彼は思わずニヤッ
と笑ってしまう。そうこなくっちゃ。自分の周りを歩く、すべての人たちに彼は、等しく親愛の情
を禁じ得ない。人間は混ざり合うと酷く退屈で残忍で下品なくだらない「集団」なのに、個々の人
格は何故こんなにも素晴らしく夜空の星のようにそれぞれが輝いているのだろう。
なんてことをぐだりぐだり考えながらたこ焼きを食べていると、友人の知也に出くわした。知也は
いつものようないやらしい笑みですぐに冗談を言った、それが彼には水を差したように(たこ焼き
を一個、取られこそしたが)好ましく思えた。なんでも貴史がミリオンゴットでミリオネアだから
飯を奢ってくれるのだそうだ。圭介やら和美やらを誘って魚民あたりで一暴れする心算らしい。
もうずいぶん日は暮れてきている。考える間もなく、男は「行こう」と答えた。私達は人間の魂に
ついて考えなければならない、それによってー
奢りならば行こう、どこまででも。 - [54]yassan 06/12/02 20:18 *Y1gESPhTjUy*Ske2L9KLxd
- 「酒」「B2」「ライト」
「ここがそうです。」案内された目の前にトイレとも思えるドアが並んでいて、公衆便所じゃないかと思えた。
エレベーターを降りて、階段をあがって屋上にあるなら、ペントハウスじゃないかと思った俺は馬鹿だった。
ペントハウス=マルの「レフト・アローン」どころか、ジャッキーのサックスが耳元で頼りなく燻った。
ドアを開けると狭くて窮屈な寝床が見えた。間口1.3m奥行き2.55mの場所に錆びたベットが置かれてある。
案内した男は「ここが君の部屋さ、お好きにどうぞ。」と言って、さっさと何処かに消えてしまった。
中に入って、座ってみればさらに狭く、トイレではないのは確かだった。しかし、夏とはいえ男の体臭が鼻につく。
気になっているのは左の4枚の戸板。そっと開けてみると不細工な男が寝ていた。最悪な事に目が合った。
男は俺をじろっと見ながら「なんだ?新人かよ、用が無いならさっさと閉めろや。」と不機嫌そうに言った。
戸板の間仕切り越しに鰻の寝床に男達が寝るのだ。ま、カーテンの間仕切りよりはマシなんだろう。
俺は男達の体臭に吐きそうだった。今日からここの住人になるのだ。俺の心臓は不整脈になった。
B1の事務所はコダックの本なんかがズラリと並んでいる。立ち入りは許可されているが、俺以外に本を読む奴はいなかった。
B2の暗室は誰もが自由に使えるのだが、モノクロフィルムを扱う暗室なんかには誰も入ってこなかった。
ペントハウスは酒の匂いもしている。月1万ちょっとでどうして手に入れるのか不思議だった。
得体の知れない男達と仲間になるには勇気が必要だった。だから、俺は酒は飲まなかった。
しかし、心配はすぐに無駄になった。得体の知れない奴等と同類になるのに時間は要らなかった。
同じ道を選ぶのだから、話が合わないはずはないのだから。
白く塗られた壁の隅々までシャッター音が鳴り響く。「お疲れさま」と仕事を終える。
眠い目を擦りながら白いペンキを塗っていると、自分の足まで塗りたくった事を思い出す。
何も知らずにこの世界に入った俺はスクープライトを最初に教えてもらった。今も鮮明に覚えている。
未来に何も見えなかった頃だ。 - [55]花木ユウ 06/12/03 12:58 /kIb0MtWrR
- 楽しそうなスレですね。
「ダウンタウン」「土曜日」「コーヒー」
土曜日の喫茶店。窓の外は相変わらず賑やかなダウンタウン。カップルだとか女子大生だとかが煉瓦造りの函館の街を抜けていく。
「ごめん、待った?」
「いや、たった今来たところだよ」
…嘘。俺は既に1時間17分も待たされていた。
「良かった〜。ごめんね、遅くなって。」
彼女…由紀子はコートを椅子に掛けると、いつもの笑顔を向ける。…瞬間、怒る気も無くす。
「何飲んでるの?」
「…ココアだけど。」
「じゃ、私アメリカン・コーヒー!」
「…自分で頼めよ。」
と言いながら、結局俺がウエイトレスを呼んで自分の苺パフェと一緒に彼女のコーヒーを注文してやる。
「あ、コーヒーは彼女に。」
運んで来たウエイトレスは一瞬不思議そうな顔をしてから微笑むと俺の前に苺パフェを置いた。
「…なんだよ。」
見れば、由紀子もくすくすと笑っている。
「だって、見るからに『俺はブラック・コーヒーだ』って顔してる男が、注文はミルク・ココアと苺パフェなんだもん」
「るせぇ、悪いか!」
「ふふふ…」
一喝して多少照れながらココアに口をつけると由紀子も笑ってコーヒーをすすった。
黄昏の港町にはクリスマスのイルミネーションが灯り始めている。
「クリスマス、どこか出かけましょうよ?コンサートがいい?オペラ?…夜ご飯は港の見えるイタリアンで。ね?ちょっと聞いてる?」
優しい明かりに溶かされた由紀子の笑顔を眺めていた俺はハッと気付く。
「え、ああ、…何でもいいけど」
「良くないわ!もう、ちゃんと聞いておいてよね!」
わかったわかった…真剣になる由紀子をつい可愛いと思えてしまう俺はやはり今年も最後までこの調子なのだろうか。
笑いながら由紀子のコーヒーを無断で一口すすって、あまりの苦さに・・・むせてしまった。
次のお題→『紅薔薇』『ピアノ』『愛の狂気』 - [56]yassan 06/12/04 21:16 *Y1gESPhTjUy*Ske2L9KL19
- 紅薔薇 ピアノ 愛の狂気
土色の顔が彼に僅かな命しかない事を物語っていた。
息子はその父が死ねば、自分が後追い自殺をすると言う。
その、下手な芝居に付き合わなければならない。
愛の狂気を演じる息子の声が更にトーンを上げた。
「君の気持ちが痛いほど知っているつもりだ。だが、
癌の進行は君の父上を乗っ取ってしまったんだよ。」
息子の大粒の涙がこのシーンを大きく飾ることになる。
その彼のクライマックスは荘厳なピアノ曲によって奏でられた。
息子は・・ 実行に移すチャンスを失った様に振舞ったのだ。
枕元で日本酒を抱えて、朝を迎えた時。
彼の右唇下に小さな紅薔薇を確認した。
冷たい12月の朝だった。 - [57]Kelp 06/12/05 10:21 ASxEHiL.dW
- いつも君と待ち合わせるレストランでは今夜も彼女がピアノを弾いている。
白いピアノの上には黒に近い色の紅薔薇…
そこだけにライトが当たってピアノを棺のように感じさせる。
遅れてくる君を待つ時間、一人でそのピアニストを見つめる機会が何度もあった。
その女性の弾く曲はビートルズだったりスマップだったり戦場のメリークリスマスだったりした。
「彼女は今夜で終わりなんですよ」と、食前酒を持ってきた黒服が僕に囁く。
「何故?」と問うと遠くへ行くのだという。
君はまだ来ない。
もう約束の時間を1時間も過ぎている。
ピアノの前に大きな花束が置かれる…多分これが彼女の最後の演奏なのだろう。
初めて聴く彼女の本気の演奏。曲名はパッション。
その長い曲が終わるまでに君が来なければ僕も去ろう。彼女の演奏に惹きこまれながら僕はようやく心を決めた。
ピアニストは愛の狂気を、女の情念をその曲に込めてたっぷりと奏で最後の指をキーに置いた。
立ち上がると誰もが拍手をした。
ピアニストはピアノの上から紅い1本の薔薇だけをスッと摘んでお辞儀をする。
階段を2段上がりそのピアニストは僕の方へやってきた。
「彼女、来たわよ。」そう言って薔薇の花を僕のテーブルに置く。
遅れてやって来た彼女はピアニストと交差するように僕の目の前に立つ。
「遅くなって……あの女性、知り合いなの?」
悪びれないその顔に、嫉妬。と書いてあった。
次は「凍る」「イルミネーション」「橋」で。 - [58]yassan 06/12/05 20:09 *Y1gESPhTjUy*Ske2L9KLGl
- 「凍る」「イルミネーション」「橋」
師走の繁華街の夜は凍るように冷たい。
僕はこの橋であの娘の出てくるのを待ってる。
馴染みのうどん屋の爺さんは早く所帯を持てというが、
そんなこと一人では決める事も出来ないさ。
だって、僕の気持ちを知っていながら、はぐらかすんだ。
それが何回もだと、結構辛いよ。
あ、来た。
「待った?」「いつもと同じさ。」「それは、どうも。」
「ねぇ 私、店を辞めちゃった。」
「え、どうして。何か理由があるの?」
「ねぇ 私を拾ってくれるかな?」
「・・・。いいよ、君を拾ってあげる。」
「そう、ありがと。」
あの娘は小さな胸を僕に預けてくる。
僕はどうしていいか判らず、おでこをぶっつけた。
小さく君は笑ったね。
見上げても繁華街の夜空に星は見えないけれど、
僕の瞳の中でイルミネーションの星が輝いていた。 - [59]花木ユウ 06/12/08 19:49 MbNNcQBlsh
- 「イルミネーション」「凍る」「橋」
…ガチャ…
「…はい、もしもし。」
「もしもし…祐子か?」
「お父さん?どうしたの。」
「なんだ、父が娘に電話したぐらいでそんなに驚かんでもいかっぺ。」
「いや、そうじゃないけど…ちょっと驚いたわ。」
「冬期休暇はこっち帰ってこねえのけ。」
「年内は忙しいからムリ。でもお正月に帰る。」
「そうか…祐子もそんな年になったのさなぁ…」
「……え?なに?」
「どうせあれだろ、クリスマスなんか、なんとか橋の上でヨコハマのイルミネーションを見ながらいい男と過ごすんだろ?ちゃんとお父さんにも紹介しなぁいかんべ。」
「やだ、そんなわけないでしょ。まだ…いないわよ、そんな人。しかもなんとか橋って、ベイ・ブリッジのこと?」
「なぁんだ、素直じゃないのはかわいくねえど…おうおう、それだそれ。“ヨコハマ、ブルーライトヨコハマ〜♪”…っと」
「…………。」
「なんだ、黙って」
「…あのね、お父さん。そもそもベイ・ブリッジは車が渡る橋よ。」
「細けえこと気にする女だなぁ。んなんじゃ嫁の貰い手なかっぺ?」
「大きなお世話よ。…そっちは?風邪ひいてない?お母さんも元気?」
「こっちは寒くて昨日は裏の池さ凍っちまったんだ。ばぁちゃんは元気だよ。代わるか?」
「あーっ、いい、いい。話長くなりそうだから。じゃあ、多分新年明けたら帰るから。」
「ん。ばぁちゃんに頼んでお節と餅さ用意しといてもらうかんな。」
「あ、全然気にしないで…じゃあ、栗きんとんがいい。」
「なんだ、相変わらず食い意地張った娘だな。」
「……うふふ、お父さん譲りよ。じゃあ、お母さんによろしく。」
「あったかくしとけ。風邪ひくなよ。」
「わかったわ」
「ベイなんとか橋から海に落ちんじゃねぇぞ。凍るかんな。」
「わかった、わかった」
「早く男つれてこいな。」
「…わかったわよ。それじゃ。お父さんも元気で。また近くなったら電話するから。」
「おう。それじゃあな。」
「…………」
「…………」
「……なによ、お父さんから切って頂戴。」
「わかった。それじゃ。」
「…………」
「……切るぞ?」
「はいはい。」
「…………」
「…………」
「……切るからな?泣くなよ?」
「泣かないわよ。おやすみなさい。」
「おやすみ。」
…ガシャン… - [60]理子 06/12/12 23:17 *3OptlDHXuiR*flyXFHLgeX
- 「凍る」「イルミネーション」「橋」
渡月橋
恋人と渡れば必ず別れると云われている
夜にはライトアップされて
浮かび上がる幽玄な姿に魅了され、恋人達は何も知らず渡っていく
凍りつくような空気に吐く息が白い
それでもあなたのポケットは温かかった
ずっと一緒にいられると信じて疑わなかったあの頃
クリスマスソング
街のイルミネーション
去年は手を繋いでここを歩いたね
手が凍るように冷たい
立ち止まり、振り返る
最後の夜
コートのポケットに、片方のピアスを落とした
返すわね
憎んでもいいから忘れないで
次は「雪」「ピアス」「飛び立つ」 - [61]yassan 06/12/23 21:52 *Y1gESPhTjUy*mo2vTbeoSt
- 「雪」「ピアス」「飛び立つ」
「ピアスなんて大嫌いだ。」と心に呟く。
男:なかなか見つからないなぁ。
女:ゴメン、何処にあるんだろう。
男:「何処にあるんだろう」って、君が落としたの。
女:ゴメン、ゴメン、でもさぁ、あれは高かったんだよ。
「そんな高いもの着けて来るなよ。」と心に呟く。
男:この広い雪の何処に落としたか。覚えてない?。
女:何処に落としたかわかるなら、とっくに見つけてるわよ。
男:ハイ、ハイ。その通りですねぇ。もちっと探しますかね。
女:ゴメン、ゴメン。
「今日は別れ話だったんだが・・ 今度にするか。」と心に呟く。
「もう少し、あなたと一緒にいたい。」と心に呟く。
突然何かが飛び立ち、女は雪の中にしゃがみこんだ。
女は左のポケットに隠したピアスを服の上から押えた。
次は「カード」「マイク」「リボン」でお願いします。 - [62]Kelp 07/01/12 20:37 gzSdHEsvr/
今日が彼女の誕生日だと気付いたのは降り始めた雪を会議室の窓から見かけた時だった。
昨年の彼女の誕生日に僕らは出会った。
君は雪の中で誰かを待っていた。
その姿が見えるコーヒーショップの窓から僕は何気なく様子を見ていた。
青いマフラーをリボンに結んだ君の肩に雪が降っては溶けた。
君は時間ばかりが気になる様で、時折駅の方角を振り返ってはため息をついた。
そうして雪の中に、1時間も待っていただろうか…
本を読みながらの長居を時計で確認した僕は店の外へと出た。
「さっきから誰かを待ってるの?」
透明のビニール傘を差しかけながら僕は彼女に尋ねた。
「もう、来ないでしょうけれど…彼を。」
君はそう答えて差し出した傘の中へ入ってきた。頬が凍っている。
「誕生日でした。今日が、私の。」
僕は君がこれ以上濡れないようにそっと肩を寄せた。
彼女は駅前の大きなデパートの受付でインフォメーションの仕事をしていた。
マイクを通したその声は、優しく澄んでいて美しかった。
誕生日を忘れた彼とはその後自然と疎遠になって、時々会うようになっていた僕らはその分親しくなった。
その彼女の誕生日が今日。
勿論、忘れていたわけではない。
けれど昇進した僕は昨年とは違い、本当に忙しかった。
抜けられない会議が長引き、たった1本の電話すらかけられない。
焦っても、時間は意地悪なほど早く過ぎて行く。
君はまたあの時のあの場所で今度は僕を待っているだろう。
植え込みを取り囲む冷たいレンガに1人、座って…
君を待たせて1時間。
走ってて約束の場所へ行った僕はそこに隠すように置かれた1枚のカードを見つけた。
『今年も誕生日に終わっちゃったわ。』
カードにはそう書かれていた。
携帯はもう繋がらなかった。
次は「つかまえる」「幻」「オレンジの屋根」で。- [63]yassan 07/01/13 21:27 *Y1gESPhTjUy*l/OBlkjUTj
- 「つかまえる」「幻」「オレンジの屋根」
その人の仕事場はオレンジの屋根なんだ。
二人のペアーでやってるらしい。
ガラス越しにお客さんがやって来るお店。
財布からお金を出して、大きな夢を買うんだ。
「幻になる金だって?買わなきゃ、当たらないよ。」
運が来ますようにって、その人はいつも言うんだ。
「オレンジの屋根」のお話しはとても短かった。
閉じてしまったHPは何も映し出さなくなった。
痕跡は過去に埋もれた掲示板。
自分の書き込みが寂しく残ってる。
つかまえることのできない思い出ばかり。
切ないね。
次は「水」「ガードレール」「凍結」で、お願いします。 - [64]yassan 07/01/24 18:30 *Y1gESPhTjUy*2wkeB7sB6n
- 「水」「ガードレール」「凍結」
深夜の帰宅途中だった。五差路を東に真っ直ぐなんだが、冬のこの時間帯が嫌なんだ。
すぐ先の飲み屋街には客待ちのタクシーが二重駐車していて、実にうっとおしい。
ほらほら、やっぱりだ。客の居ない歩道を見つめる停車のタクシーが膨らんで通りづらい。
ここを抜けてしまえば、後はスイスイだ。T字路のひとつ先の信号が赤になった。
ブレーキに足を掛けながら、きまぐれにハンドルを左に切って停車してしまった。
左車線をこのまま走れば、いずれは先で右に入らなければならないのに。
擦れまくったガードレールを見ながら、眠っていたかもしれんと思う。
その時、サイドミラーにタクシーがカーブを描きながら右隣の車に追突した。
「ドーン!」ラジエーターの水は噴水のように上がり、ヘッドライトで照らし出された
水が霧のように辺りを覆った。後方のスタンドの出る所で水が撒かれてあったのを覚えている。
「プロらしくない、道路の凍結で滑ったか。」どちらの運転手も降りてきた。
「関係ない。」私は車を出した。バックミラーに2台の事故車両が置き去りにする。
「偶然にも左にハンドルを切った俺は運が良かったんだ。ラッキー!」
しかし、気のせいか。さっき見たようなドライバーだったような・・・
残された二人の運転手が微笑んだ。
次は「ブラックペッパー」「明太子」「ガソリン」でお願いします。 - [65]も も も 07/02/09 16:19 rTbS4snUny
- 「ブラックペッパー」「明太子」「ガソリン」
「おい!てめぇふざけてんのか!!」
悟の怒りは収まらない。
「明太子にブラックペッパーかけただけのものを酒の肴にしろってか?ぁあ?」
そして部屋にガソリンまいて火をつけた。
次は「ねこじゃらし」「宇宙戦争」「ローション」でお願いします。 - [66]Kelp 07/02/10 22:17 Fk0dM1IOb4
悪戯好きの僕は今夜、野良猫を相手に罠を仕掛けてみた。
1、まず猫じゃらしで猫をおびき寄せる。
2、映画の「宇宙戦争」よろしく予め地面に埋めた明太子を猫に気付かせて猫がどうするかを見る。
野良猫はいつも何かと手なづけていた親分のクロ。
作戦開始。
大きな図体をしているくせに簡単に猫じゃらしに喰いつく。
明太子を埋めた場所までおびき寄せると…
案の定、地面を掘り返し始めた。
もう彼の頭からじゃれると言う行為は消え去っている。
やっと掘り返した明太子を一度大きくふるって齧り付く。が辛い筈…
ご丁寧にブラックペッパーまでかけてあるのだ。
クロは何度かのチャレンジを試みたが、結局半分だけ引きちぎると僕の方に恨めしそうな顔を向けた。
思った通り…
僕は納得して今夜の作戦を終えた。
それから何日か後。
部屋へ戻ると大きな声が聞こえる。
「どうしてローションの入れ物にガソリンなんか入れておくのよ!」
一緒に住んでいる彼女だ。危うく顔に塗りそうになったらしい。
「あれだけ匂う物だから気付かないとは思わなかった」
それは次の悪戯のネタだった。
「信じられない」そう捨てゼリフをして彼女は出て行った。
それきりあのクロも彼女も僕のところへは近づかなかった。
悪意のない、ただの「悪戯好き」なだけの僕なのにこうして誰もが去っていく。
次は「凍らない」「野菜ジュース」「ホーム」で。- [67]MGENN 07/02/20 15:13 *3d8ZSoyfxW.*LZMPPCJfEN
- 駅のホームで思い出の野菜ジュースを飲む。
上京する時に、体の弱い俺の為に、妹から貰った野菜ジュース。
優雅とは決して言えないBreakfast≠セが、シティーボーイを自称する俺にしてみれば、何の事は無い。
都会を生きる社会人の嗜みのような物だと、思う。
久しぶりに帰ってきた北海道はやはり寒かった。
たった二年。それだけの年月だというのに、空から音も無く舞い降りる粉雪が至極懐かしく思えた。
電車が来る。田舎へ向けて走る特急もやはり懐かしかった。
勢いで都会に出た時乗った特急だった。
東京での就職はやっぱり失敗した。
温度の無い絶望感が心を支配し、ため息が零れる。
義妹はどうしているだろうか。
義母さんはどうしてるだろうか。
義父さんはどうしてるだろうか。
「迷惑をかけたくない、大丈夫、もう負担かけないからさ」
何て豪語して出て行った俺を、家族は迎え入れてくれるだろうか。
最悪の状況を考えて、背筋を震わす。
電車がトンネルに入る。
耳が詰まって、音がくぐもる。
現実感が消えうせる。
可愛い妹の事を思い出す。今も可愛いままで、純粋なままで居るだろうか。
東京に行くからと、凍らせた感情が今になって凍解してく。
心臓が一際力強く、脈打った。
愛してる。凍らせた感情が再び蘇り、心臓を絞る。
がら空きの車内。力なく椅子に腰掛け、項垂れる。
怖いんだ。妹に否定されるのが。
ただ一人、手を繋いで助けてくれた人間だから。
家族から捨てられた僕≠家族だけが支えてくれた。
ここがお家だと教えてくれた。
感謝してるし、自分の全てを彼らに捧げても良いと思っている。
けれどそれ以上に、彼女、妹を愛しているんだ。
無垢な笑顔が懐かしい。愛しい、可愛らしい。
その笑顔が、二度と見れなくなる。そう思うと、凍らせずには居られなかった。
狂ってしまいそうなんだ。妹の笑顔を見ると、抱きしめたくて、仕方が無くて、でも、それ以上に、怖くて、恐ろしくて、嫌われたくなくて。
お兄ちゃんって呼ぶ声が、何度も何度も心を刺して、大好きだって叫びたくなって。
怖かった。恐ろしかった。
いいや、それは今も同じだ。
これから家族に会いに行く。これから一緒に暮らしてく。
そう思うと、そう思うと、心がさび付いた車輪のように、動かなくなって。
終点、終点。電車が死刑を宣告するように、ブレーキをかけた。
おぼつかない足取りで、駅の改札を抜け、バスに乗る。
家の近くの停留所で降りて、三キロほど歩くと、懐かしい家が見えてきた。
改札は変わりなくぼろぼろで、裕福そうな感じはしないのに、貧乏そうな感じもしなくて。
温かいなんてわからないのに、温かそうに見える。
チャイムに指を乗せる。
指が震えているのが、自分でもわかる。恐ろしいんだ。
ゆっくり、ゆっくりと、チャイムを押して行く。
カチッと小気味良い音がして、中でチャイムの音が鳴った。 - [68]MGENN 07/02/20 15:13 *7kVNe1rDxNy*LZMPPCJfEN
- 漏れ出した音に続けて妹の声が聞こえる。
体が大きく震えた。
逃げ出したくなる。
持った鞄が、大した重さも無いのに重く感じられ、逃げたいのに足は地面にくっ付いた動かない。
叫び出したくなる。けれど、喉は音を発しない。
扉があけられ、そこには変わらぬ妹が居た。
驚いて、呆気にとられたような顔をして、泣きそうな顔になって、取り繕うように満面の笑みを作った。
「お帰りなさい」
声は温かかった。
心配は杞憂だった。
母親は元気で、父親は楽しそうで、皆で酒を飲んで楽しんだ。
母さんは相変わらず酒に弱くて、妹はそれを受け継いでいて、二人が酔いつぶれた頃に、父親は嬉し涙を流した。
「良かったよ。元気で。こっちで暮らすんだろ? 良かったよ。本当に。良かった」
鼻水をすすって、涙を袖で拭って、そして真剣な顔をして問いかけた。
「彼女は、向こうで出来たのか?」
俺は苦笑して、いいやっと首を振った。
そうか、と。それだけ父親は言って、頭をかいた。
暫く酒を飲むだけの時間が来る。
気まずい雰囲気ではなく、そうするのが正解であるような、そんな雰囲気。
そして父親は、言い難そうに。だけどはっきりと、言った。
「アイツは、まだ……彼氏を作って無いんだよ」
父親らしい、優しい瞳で妹を見て、父親は呟いた。
そして、『なんでだと思う?』と楽しそうに問いかけた。
わからないな、と苦笑いをする俺を見て、より優しい瞳を見せて、父親は、懐かしむように、答えを言った。
「お前が、好きだからだよ」
笑えない冗談だった。
まさか、と言って笑ってみるが、父親は真面目な顔をして、座りなおした。
正座をして、面と向き合って、問いかける。
「お前は、アイツが好きか?」
問いかけは、何処か確信めいた物を持っていて、思わず息を呑む。
「いつでも良い。だが早い方が良い。お前から、アイツに、告白してやってはくれないか?」
昨日までの俺なら、何て答えただろうか。
凍らせた感情を抱いたまま、無理だ、と言うだろうか。
良いや、違う。
この感情は、暖かすぎるんだ。
だから氷があっても、雪をかけても、凍らす事なんて不可能なんだ。
妹を見る。雪のように白い肌には、染み一つ無く、東京で見た誰よりも美しかった。
俺は、ふっと微笑んだ。
頬を指で撫でると、柔らかく、弾力のある、肌をしていた。
ゆっくりと、妹は手を動かして、赤ん坊のように指を握った。
兄さん、と呟いて。
「理由が無いよ」
酒を一気に煽って、父と向き合う。
「今度、お茶にでも誘うよ」
安心したような、父の笑みは優しかった。
ポケットに入れてあった、もう一つの野菜ジュース。
これはもう要らない。
だって彼女が、いつだって俺を見ていてくれるんだから。
凍ってしまった、凍らない心が、溶け始める。
All of this home are warm. - [69]MGENN 07/02/20 15:16 LZMPPCJfEN
- 長々と申し訳ないです^^;
次のお題は「小説」「ハンター」「人間力」
で、お願いします。 - [70]equilibrium 07/03/07 06:40 J7vbAIGNdc
- 「ねこじゃらし」「宇宙戦争」「ローション」
交渉が決裂し、宇宙戦争勃発がいよいよ確実となってきたことを
ニュースキャスターが淡々と伝えた。僕は猫じゃらしを持つ手を
止めた。
戦争だって? まさか。今まで何十年間も戦争は起こっていな
かったんだ。今回だって何とか上手く回避されるだろうさ。
戦争なんて野蛮なものは、もう21世紀で終わっちまった筈だ。
進化した僕達は、肉だけで思考していた古代人と比較して
そこまで愚かじゃないだろう。
突然遊びを放棄されたキティが不満に満ちて僕の手に噛み付いた。
「いてっ、何するんだ、痛いだろ!」
僕は思わずキティに平手打ちを食らわせた。彼女は怯えて身を
縮め、恐怖に怯えた目で僕を見据えた。
何てこった、そんな積りじゃなかったのに、、。
あんな小さな生き物を叩いてしまうなんて僕はどうかしている。
「ごめん、キティ。謝るから、こっちにおいで」
僕の手を拒否して彼女は勢いよく棚に飛び乗った。
棚が揺れ、置いてあったローションが安定を失った。
それは遣り掛けのジグソーパズルの上に落下した。
割れたローションの瓶から液体がはみ出し、パズルも絨毯も
台無しになった。
「何てことしてくれたんだ、キティ!
世界に二つとない国宝物のアンティ−ク絨毯なのに。
あのパズルだって、完成直前だったんだぞ。
このbloody猫、もう許さないからな」
僕の背後でキャスターの悲痛な声が響いた。
「… 開戦 … !」 何だって? 宇宙戦争が、か? まさか。
「… 何てことだ! あいつら本当に、、本当にやりやがった!
Jesus Christ!」 何だ、何をだ!?
あの号泣は本当にニュースキャスターの声なのか?
猫の虹彩が糸のように細くなった。辺り一面眩しく輝く光線に
包まれ、急激に僕の体中の分子が振動し…… - [71]いのどん 07/03/08 09:58 YbZfrNovyo
- 「小説」「ハンター」「人間力」
○到来のものの饅頭があるんだけど,食べないかい?
●いただきましょー,いただきましょーせっかくですからいただきましょー。 (小説)
○ぼくは甘いものは苦手でね,もっぱら辛党一本槍。
●つまみなら食べるんだろう?
○つまみもほとんどいらない。鼻つまみながらでも,一升飲めちゃうタイプ。
●ぼくはお米が大好きでね,おまんまに日本酒かけて,お米の佃煮といっしょに食べるのが好き♪
○酷い食べ方だ,言語道断。絶対はんたーい! (ハンター)
●ウソだよ,冗談。
○なんだウソか。ウソつくのよくないアルヨ。
●アルヨって,何人だよおまえ。
○インド人。
●インド人だったかとは知らなかった。てっきりインディアンかと思ってた。
○インド人ウソつかない。
●このまえインド旅行して,さんざん騙されぼったくられたんだけど。
○ソレ貧乏ナ人。貧乏人,何トカシテ稼グタメ,時々ウソツク。
●ぼくを騙したインド人,けっこう良い身なりしてたんだけどなあ。
○ソレハキット企業家カ政治家。
●インドでも政治家や企業家は民衆を騙すんだ。
○ソウソウ,ソウアルネ。インド人権力者,デカイウソツク。(人間力その1 ちょっと苦しい)
●日本人権力者もウソツクアルヨ!!
○アレ,何デ アナタマデ ソンナ コトバヅカイスル?
●ワタシモ ジツハ インド人アルヨ。オマエ カレー食ウカ?
○ジャア,ピーマンーカレー食ウヨ。緑ノモノ,体ニイイネ。
●イイ,イイ。デモ,減量中ダカラ,アマリ食ベラレナイネ。
○ヘエ,ナンデ減量シテルノ?
●今度カバティ ノ 試合アル。減量シテ動キ良クスル。
○減量ハ辛イネ。
●耐エ忍ブアルヨ。忍忍。忍,減量苦。 (人間力その2 これもお粗末)
つぎのお題。
「花見」「喧嘩」「番頭さん」 - [72]理子 07/03/12 22:50 *3OptlDHXuiR*SXui3U681E
- 「小説」「ハンター」「人間力」
「ニートよ人間力を高めましょう。・・・講習会の案内?」
は?人間力?
そんなもん、俺には関係ない話だ。
第一俺はニートではない。
小説家だ。
あいつ、こんなもの机に置きやがって・・・
男はくしゃくしゃに丸め、ゴミ箱に投げ捨てた。
今にみてろ。
あっと驚くものを書いてやる。
大体小説家ってぇのは、どいつもこいつも下積み生活が長いってぇもんだ。
10年や20年経ってから認めてもらえるヤツがいるんだもんな。
俺なんか絶対そのタイプだ。
今の審査員がどうかしてるんだよ。
「おい、金」
「お願いだから・・・」
「よこせ!」
母親を突き飛ばし、バッグから財布を抜き取った。
ネタ探しには金は必要。
そんなこともわからないのか、あいつは。
バカなヤツ。
繁華街はネタには尽きない。
喧噪、闇、暴力・・・
酔い潰れた男が道で寝そべっている。
スーツにネクタイ。
こんな男に人間力があるとでも?バカバカしい!
「どうかしましたか?」
ふんっ!ちようどいいや。
ハンターの目になった男は、ずるずると獲物を引きずって闇に消えた。 - [73]( ・ェ・) 07/03/16 03:32 V6Fq8MQA/v
- 「花見」「喧嘩」「番頭さん」
(回ェ回)は、焦っていた。
もう夜の10時をまわって、約束の時間から
2時間も経っている。
待ち合わせ場所の、小料理屋・へちまの閉店時間は11時だ。
(回ェ回)は、ゆっくりと煙草に火をつけ、思い出していた。
3年前のその日、
ダーツ仲間の、番頭さんが、ある発見をしたと、
興奮しながら(回ェ回)に、話しだした。
「こんな画期的な発明は人類史上でも類をみない!
その薬は、飲めば、その薬が変わりに運動をしてくれる。
代謝がよくなるんではない。
薬の成分が、体中で、運動を始めるのだ。つまり、細胞の
一つ一つが暴れ出す。じっとしているだけで、
一錠でフルマラソンと同じ運動量になる。
お好きなように、痩せるなり、筋肉をつけるなり、健康になるなり、
もう何でも、手に入る!」
(回ェ回)は、一瞬、戸惑った。
「そんな、楽をして、手に入れていいのだろうか…
そんな薬が出来てしまえば…全てが変わる…」
以下に続く。 - [74]( ・ェ・) 07/03/16 03:32 V6Fq8MQA/v
- しかし、その気持ちも、すぐ吹き飛んだ。
開発が終われば、ざっと、100億は手に入る。
その日から、番頭さんと、(回ェ回)との、合同の研究は
始まった。
まだ理論しか出来てなかったのだ。
悪戦不当の日々が、始まり、はや3年。
花見の季節で、うきうきするこの日。全てが完成する。
(回ェ回)の持つB薬。番頭さんが今日、持って来るA薬を
混ぜれば、完成だ。
しかし、番頭さんは、来なかった。
なんと、喧嘩に巻き込まれて、手がすべり
A薬を道路にぶちまけてしまったのだった。
落胆した(回ェ回)…
ふと、(回ェ回)は、身体の中で暴れて動くようなものだったら、
別にガソリンでもいいのではないか?
何をとち狂った事を!
疲労と絶望の為、判断力が低下したのか、(回ェ回)は、
自分の開発したB薬とガソリンを混ぜてみた。
試験管でブクブクと泡が立ち始めた。
「よし!いいぞ!」
ブクブクブク
ドッカーーーーーン!
その日、地球は消滅した。
しかし、次の日、
薬の持つ、驚異的運動能力で、たった一日で、地球は、
回復して、皆も元気になった。
めでたし、めでたし。
(回ェ回)は、英雄として、語られることになったのである。 - [75]( ・ェ・) 07/03/16 03:33 V6Fq8MQA/v
- 次のお題 「狂気」「みずたまり」「掛け時計」
- [76]いのどん 07/03/16 16:07 YbZfrNovyo
- 「狂気」「みずたまり」「掛け時計」
昔から,男の楽しみの三大スターというと,「飲む」「打つ」「買う」。
ヘロインを買い,コカインを飲み,モルヒネを打つ。
というのではない。
酒を飲む。博打を打つ。女郎を買う。
戦前は遊郭などというたいへん結構な場所があったそうだが,いまは残念ながらない。ではどうするかというと・・・・・・どうしましょうか。
銀座の老舗の時計屋さんの若旦那,真面目の国から真面目を広めてきたような真面目な人で,飲まないし打たないし買わない。商売熱心で,勉強熱心で,時間があるとあれこれ本に没頭している。
あんまり真面目なものだから,親父さんはかえって心配だったりして,ある日,大のお得意である金さんと会話の折りに,ちょっと愚痴などこぼした。うちのは真面目すぎてねえ。商売人なんて,少しは遊びも知らないと・・・。
そしたら金さん,大の遊び人だったようで,自信たっぷりに請け合った。
「遊びならわたしの専門分野だ。よs,ひとつわたしが若旦那をキャバクラにでもお連れいたしましょう」。
「そうかい,そうしてくれるかい。すまないねえ」。
「若旦那! 若旦那!」
「おや,金さん,こんにちは。きょうはどちらへ?」
「ちょっと天使の顔でも拝んでこようかと思って。どうですごいっしょに」。 「天使ってなんなんですか?」
「おや,ご存じない? 天使って,エンジェルですよ。森永のチョコやキャラメルでみたことあるでしょう」
「はあ?」
「わたしはね,毎晩のように天使に会っているんです。もう天使にやみつき。」 「あのう,よく話が見えないんですが。天使がほんとうにいるわけじゃあないんですよね」
「いますよ」
「いますよって・・・」
「百聞は一見にしかず。じゃあ,いまからいっしょに会いに行きましょう」。
金さん,とまどう若旦那を強引にタクシーに乗せると
「とりあえず新宿に向かって」
そこをまっすぐ,そこ右に曲がって,なんてキビキビと指示を出す金さん。着いたところは歌舞伎町。
「ちょっと金さん,ここ,歌舞伎町じゃないですか」
「よくご存じで。そう,歌舞伎町です。天使はすぐそこにいますから」
強引に若旦那の腕を引っ張って,とあるビルに入るとエスカレーターに乗せてしまった。
チーン。
扉が開くと,看板が目に入る。「天使の館」
「ちょっと,金さん,ひどいじゃないですか。ここ,もしかしてクラブか何かでしょう。わたし,クラブになんて行きたくないんですよ。何が天使ですか。ホステスのことでしょう? 嫌です。興味ありません。」
「なに言ってるんですか若旦那。ここはクラブなんかじゃあありませんよ」
「だったら何なんです?」
「キャバクラ」
「キャバクラって,キャバレー・クラブの略称でしょう!!」
「へぇ,そうなんですか。知らなかった。何だ若旦那,お詳しいですね。コノ,コノッ」
「ちょっと,つっつかないでくださいよ。引っ張らないでください。ちょっと,ちょっと・・・」
若旦那の運命やいかに。
あ〜おしい切れ場だ。別に惜しくもないな,こんなツマラナイ話。 - [77]いのどん 07/03/16 16:07 YbZfrNovyo
- (つづき)
無理矢理キャバクラ「天使の館」に連れ込まれた若旦那。
金さん,天使の館にはちょくちょくくるらしく,しかもいつもずいぶん散在するらしい。下にも置かぬ,という感じの歓迎ぶり。お店自慢のきれいどころが集まってきた。
若旦那の隣には新垣由衣ソックリの天使がご降臨。若旦那も所詮は男,飛び切り可愛い笑顔に一発でコロリ。モジモジしながらもうれしそうです。
「マリでーす」
「ああ,マリさんですか。よろしく。わたくし銀座で時計店を営んでおります柳時三郎ともうします」
「へえー銀座の時計屋さんなんだ。かっこいいー。もしかして社長さん?」
「いいえ,社長は父です」
「じゃあ次期社長だ。若旦那さんだ。すごーい」
「あのう・・・名字はなんておっしゃるんですか?」
「えっ? 名字?」
「わたくし,女性を名前で呼びつけにするの,慣れないもので。話をするにしても,なんてお呼びしてよいやら・・・」
「じゃあ,特別に教えてあ・げ・る。ミズタでーす。ミズタ・マリ」
「善いお名前ですね。あっ,でも本名じゃないんですよね」
「本名だよ。マリは違うけどほとんど本名。ほんとうの名前はマリイ。こう書くの」
「はあ,水田真理衣ですか。真理衣って本名はあんまりいないでしょう?」
「ママがフランス人で,フランスではマリアさまのこと,マリイっていうんだって。そこからつけたみたい。 それより,今度お店に行ってもいい?」
「あー。どうぞどうぞ。どんな時計がご入り用ですか?」
「ブランドものの腕時計とか欲しがると思うでしょ。違うの。部屋に掛け時計が欲しいの。ただの掛け時計じゃなくって,本物のカッコウ時計。」
「カッコウ時計もいろいろ置いてありますよ。是非おいでください。でもなんでカッコウ時計なんですか?」
「それが聞くも涙,語るも涙の話なの。聴いてくれる?」。
いったいどんな話なのでしょう。つづく。 - [78]いのどん 07/03/16 16:10 YbZfrNovyo
- (つづき)
「姉がいるんだけどさ,もう長いこと入院していてね。地元の病院。あっ,まだ話してないよね。実家は山形なの。姉が入院してるのって,じつは精神病院」
「お姉さん,おいくつなんですか?」
「24。15歳の時に入院したから,もう10年になるのか」
「ずいぶんお悪いんですか? あっ,すみません。お悪いなんて言い方,失礼ですよね・・・」。
「そんな気を遣わなくてもいいよ。姉はね,ちょっと変わった精神病でね」
「どういうふうに変わっているんですか?」
「ダジャレ病なの」
「えっ,ダジャレ病?」
「ふざけているみたいでしょ? でも違うの。けっこう深刻なんだ。自分でいつもダジャレを言っていないと気が済まないの。でもいつもダジャレが思い浮かぶとはかぎらないじゃない? それで,思い浮かばないと,キャーッと大声で叫んで,暴れ出したこともあった。いまじゃぶち切れちゃって,笑いっぱなしだけどね」。
「なんか,お伽噺のような,夢のようなお話ですね」
「若旦那,変わったセンスしてるね。夢のようどころか,悪夢だよ。いまでも忘れられないなあ。姉が入院した日のこと。 最初は調子が良かったんだよ。良かったといってもダジャレの調子のことだけど。《マリイおはよう。開高健の本はオーパよう。マリイのここにあるのはオッパイよう。ようようよう,レモンガス。あそこにいるのはモモンガっす。モモンガ・・・ももがはち切れそうでピーチピチ。ピチニイサンシ,サンニッサンシ。サンシのイラッシャーイ。イラッシャイ木村。みなさんこんばんわ,ラッシャイ木村です。キムラルタル海峡。ジブラルタルでジョン・レノンとオノ・ヨーコが結婚式を挙げたってね。パパはハゲたってね〜ダンチョネ。チョネ・・・チョネ・・・チョネチョネチョ・・・チョ・・・チヨチヨ。ああ思い浮かばない・・・思い浮かばない・・・気が狂いそうだ,おうおうおう・・・ほんうに狂いそうだ・・・キャーッ!! ギャーッ!!!! ギャオーッ!!!! 狂気が今日きたー!!!! ワーッハッハッハ ワーッハッハッハ・・・》」。
「・・・・・・・・・・・・」
「そのまんま入院したの」
「いまどんなご様子なんですか?」
「朝から晩まで笑いつづけてる」
「それはある意味,お幸せかもしれませんねえ。笑うことは体にも良いそうですし」
「でも顔色なんてすごく悪いんだよ。血の気まったくなくて」
「言われてみればそうだ。ダジャレだけに白けますでしょう」
「卒業式」「花吹雪」「れんこんの甘煮」なんてどうでしょう。他のでもいいけど。 - [79]equilibrium 07/03/20 00:21 xF7562hoDn
- いのどんさんの話、笑い転げました。
駄洒落好きな私のツボにスッポリはまりました。 - [80]( ・ェ・) 07/03/22 02:25 QLGVWL1tBo
- 「卒業式」「花吹雪」「れんこんの甘煮」
(回ェ回)は、朝早く、起きて、
真新しいスーツ姿に身を包み、鏡にブイサインをしてみせた。
顔がほころぶ。
今日は、西暦2030年に
NASAが開設した、スペーススクールの卒業式。
(回ェ回)は優秀だったといえ、卒業までに、
4年を要した。
NASAスクールは、卒業するまでに、
平均で6年はかかるスクールなのだ。
どんなスクールなのだろう。
NASAスクール…それは、そのスクールを卒業すると、
宇宙基地に配属されて、そこで研究や仕事をするというものなのだ。 - [81]( ・ェ・) 07/03/22 02:26 QLGVWL1tBo
- 宇宙基地は、木星の軌道上にある。
現在宇宙基地には1800人の、人員がいる。
皆、NASAスクールの卒業生だ。
(回ェ回)は、2週間後に、出発をひかえていた。
卒業生は、10人。
卒業生と言っても、特殊訓練を、積みにつんだ、ものである。
宇宙基地についたら、すぐ、配属され、仕事は始まる。
出発の前夜、
(回ェ回)と、同じ卒業生の、バラバーラは、
地球で最後の、バーで飲んでいた。
「なぁ、バラバーラ…なんか、憧れてた、宇宙だけど、もう地球には
あんまり、来れないよな…見慣れている景色だけども、愛おしく見えるんだぜ…」
「なんだよ!(回ェ回)!おまえが一番、宇宙こそ神秘とか言ってたんじゃん…でもな…分かるよ…俺も…同じ気持ちだ…」
外では花吹雪が舞っていた。 - [82]( ・ェ・) 07/03/22 02:26 QLGVWL1tBo
- 当日になり、スペースシャトルが発射するのは、PM1:30。
早朝にはもう、10人の全員が待機している。
管制塔:「こちら、シャトル基地。応答願います!」
木星の基地と、交信をしようとしている。
・・・・・木星の基地からの応答がないのだ・・・・・
管制塔リーダーのロバートは、
「何なんだ?いったい?」
その後、3週間、木星基地からは、応答はなかった。
ロバート「何があったんだ?」
何かあったとしか、考えられない。
10人の卒業生がいくしかない。
(回ェ回)も、何が何だか、分からなかった。
とにかく、木星基地で何かがあっている。 - [83]( ・ェ・) 07/03/22 02:27 QLGVWL1tBo
急遽、木星基地探査隊として、卒業生達は、木星に向かうことに
なった。
バラバーラは、
「連絡も、取れない、基地に行くのか?
いったい、何があっているのだ?」
不安は皆、一緒だ。
10人の探査隊は、PM1:30に、地球を出発した。
・・・・・・・・
木星の軌道上に到着した、シャトル。
「木星基地、応答願います!」
何の応答もない。
木星基地に降り立った。
入り口も、開かない。シャッターを溶解して、入ることが出来た。
中は…
なんと…皆、寝ていた…
原因は、基地隊員の
ドンバーの作ったれんこんの甘煮に、間違って、
強力な睡眠薬が、混入してしまっていたのだ。
10人の卒業生は、急遽、解毒剤を作り、
皆を起こした。- [84]( ・ェ・) 07/03/22 02:27 QLGVWL1tBo
- (回ェ回)は、ちょっと、木星人に侵略されたとか、
考えて、いて、ホッとしたが、
前途多難。
ビービービー
その時、緊急ブザーがなった。
ドドドドドと何かが、入ってくる。
木星人だった。
3週間前に、地球からの、木星基地を心配する、管制塔の
メッセージを受信していたのだ。
ずっと、木星人は、心配していたらしい。
しかし、シャッターが閉まっていて入れなかったのだ。
木星人は可愛らしい感じだった。
木星人は、記念に木星特産の、キーホルダーをくれた。
地球人は、れんこんの甘煮を渡した。
もちろん、何も混入していないやつをね。
お騒がせな騒動でしたね♪ - [85]( ・ェ・) 07/03/22 02:32 QLGVWL1tBo
- 注意:木星基地とは、木星の軌道上にある、宇宙基地を言っています。
次のお題
「シャープペンシル」「葉っぱ」「サイダー」 - [86]Kelp 07/03/23 23:15 4VRaOBN3ki
- ( ・ェ・) 読みやすい、面白い…
「シャープペンシル」「葉っぱ」「サイダー」
変則、即興にて失礼します。
葉っぱは旅する
新緑のままの色で
サイダー飲んでるあの子の肩や
春の風に触れようと
窓を開けた長い髪
テストが近づく新入生の
クルクル回す
シャープペンシルにも
葉っぱは思いの全てを込めて
旅する
旅する
誰もが幸せを感じるように
それを運ぶ… - [87]Kelp 07/04/06 22:30 L0a5iwIgWS
- 桜が咲いている4月に、時ならぬ雪が降ったその日
君は大学生活を始める為、長い時間を過ごしたこの家を出て行った。
「次に帰ってくるのは新緑の頃」ゴールデンウィークには戻ると言った。
君の居ないこの家には作りすぎた味噌汁や君の好物が残る…君の不在をふと感じる時。
やせっぽちの君をいつも僕はからかった
「葉っぱばっかり食べている」と。
心配なのはそんな君の食事、ちゃんと食べていけるんだろうか…
出かける時、大人びた顔で振り返って「飲みすぎには注意だよ」と君は笑った。
そんな君から3日ぶりに電話が来て風邪気味だと言う。
喉が痛いんだよ…
「喉の調子が悪い時はサイダー」いつもそう言っていた様に君はきっとサイダーを飲んでいるだろう
何の解決にもならないけれど。
今は何もない机の上に置き忘れられたシャープペンを、僕は今日ポケットに入れて、会社へ出掛ける。
桜はもう散り始めている。
次は「交差点」「流れる」「高い」で。 - [88]理子 07/04/08 20:02 *3OptlDHXuiR*oYj/SLlInl
- 「交差点」「流れる」「高い」
いつもの交差点。
信号が青に変わると一斉に流れ出す。
夢や希望にあふれる顔。
苦しみや辛さを抱えてる顔。
様々な顔、顔、顔が流れていく。
いつもと変わらぬ光景。
何人にもいろんな形の生活がある。
私もその中のひとりなんだ。
いつもの交差点。
上昇を続けるエレベーターから見る。
高いところから見ると季節の移り変わりがはっきり読み取れる。
人々の動きは魚の遡上にも見える。
私もその中のひとり。
どんなに重く感じていても、ちっぽけな存在。 - [89]理子 07/04/08 20:06 *3OptlDHXuiR*oYj/SLlInl
- ごめんなさい。
5行目訂正
流れていく→流れる - [90]いのどん 07/04/09 10:30 bUtlgKcOzC
- 「交差点」「流れる」「高い」
タクシーに乗っていて渋滞にひっかかると,まことにイライラするものだ。
さして動きもしないまま,時間ばかりが経過して,料金メーターはいっちょまえに上昇をしつづける。
信号待ちも不愉快だ。ようやく青になっても,たいして進まない。何度目に青になったら,この交差点を渡れるのだろう。交差点は,こう,サッと行くべきポイントだからこそ交差点だ。これではジリダラ点である。
退屈だからボーッと外をみている。こうしてみると,タクシーの窓から眺める都会の景色も,なかなか趣があるものだ。林立するビルの間に広がる青空を,薄雲が流れる。
ボードレールの詩に出てくる異邦人ではないが,雲っていいな,いっそ人間辞めて雲になりたいな,なんてつまらぬ妄想。妄想というより逃避願望か。
あの雲はこれからどこに行くのだろう。山に行くのか,郊外の住宅地にむかうのか,それとも大海原へ。まず山にぶつかって,雨になって,川になって,いつか海に流れだすのか。けっこう雲も波瀾万丈だな。ただ安楽にいられるものなど,この世にないのかもしれない。
もしのんびり気ままに安楽に生きるなら,飼いネコなんか,けっこうよさそうだ。裕福な家庭の広い庭で暮らすビーグル犬なんかも憧れるな。
窓から空を見上げながら,犬の生活などぼんやり夢想して,ふと気づくと,さっきからほとんど動いていない。数台先にはすっかりおなじみのあの交差点。
見たくないなあと思いながら,おそるおそるメーターに目をやってがっくり。これでは高い料金払って,ぼんやり物思いにふけっているようなもの。なんてぜいたくな月曜日。
*******
ランドセル,ともだち,もんしろちょう なんていかが。 - [91]シノプス 07/04/16 00:01 U5sCZoZ4/p
- 「ゆきちゃん、これはなんの絵?」
「んーとねえ、んーと、もんしろちょう!」
綾香が相手をしている間、僕はこの迷子の少女の身元を探るべく、
勝手にランドセルの中身をあさっていた。
結果として分かったこと、名前は「むらのゆきほ」、
通っているのは「なつめざか小学校」、先生の名前は「かしや」さん。
それだけ。
これはいよいよ警察に任せるしかないかもしれない。
僕はそう思った。思っただけで、決して口には出さなかったのだが、
少女はそんな僕の心理を嗅ぎつけたのか、
「ゆきちゃん、おまわりさんのところには行かないからね!
さっき言ったでしょ!」と、鋭く威嚇してきた。
ああ、これがなければ、こんな面倒な話は官憲に押し付けて、
今頃自分の家でごろごろしているはずだったのに、
何が嬉しくて、綾香の家でわがまま娘のお守りなんぞ……。
「大丈夫。おまわりさんの所には行かないからね。
あのお兄ちゃんが無理やり連れて行こうとしても、
そんなのお姉ちゃんが許さないから。だから安心して」
挙句の果てに僕は悪者扱いか。いい加減うんざりして、
僕は居間の前の廊下に寝転がった。ふて寝だ、ふて寝。
「ところで、この子はだーれ? 学校の先生?」
「んーん。ゆうくんだよ。ゆきちゃんのおともだちなの。
せがたかくって、おさけやさんのひとなんだよ」
ああそうですか。ゆう君、背が高い、酒屋、
なるほどねえ。……ひらめいた、ひらめいたよ。
僕は寝転がったまま、顔だけ綾香のほうに向けて言った。
「なあ、もしかしてそのゆう君って……」
「雄介さんだよ! ほら、学校の近くの酒屋さんの!
ほらこの絵見てよ! 茶髪でしょ! 絶対そうだって!」
先に言うな、くそ。僕は何となく不愉快だったが、
このわがまま娘からもうじき解放されると思うと嬉しくて、
通常の1.3倍の速度で飛び起きた。
次は「大吟醸」「新宿」「ネコミミ」の3つで。 - [92]プラチナ 07/05/08 11:31 *9ccRE0pSjzi*iHqqJnO2k0
- 眠らない街、新宿…と人は言う。
あの街に近寄らなくなってどのくらいが経つだろう。
あの頃の新宿はまさにバブルの真っ只中
誰もがいつまでも続くであろう好景気に浮かれていた。
そこで出会った人たちはみんな一風変わっていて、路上でアクセサリーを売ったり、似顔絵を描いていたり。
夜になる何処からとも無く現われ、朝になると消えているといった幻のような人たちばかりだった。
その中の一人に、車椅子に座った彼が居た。
彼がどうして車椅子の生活になってしまったか、聞いたことは無かった。
ただ、気づいたらアクセサリー売りの仲間たちと一緒にソコに居たのだった。
もうすでに顔見知りだった私は、独りで居たときの彼に聞いたことがある。
「トイレはどうしているの?」と。
彼は後ろのビルを指して「ここの裏から入れてもらっているんだよ」とニッコり笑って答えた。
それだけが私が覚えている会話の全て。
その頃の私は客の立場から売る方の人間になっていた。
もちろん、ボランティアだったけれど。
その車椅子の彼が恋をしていると仲間たちから聞いた
相手が誰か、いくら聞いても誰も教えてくれなかった。
どんな小さな声も聞き漏らさないネコミミを持つ私にも見当がつかない。
<私はドウセよそ者だから…>
そのうちに私は飽きてしまい次第にソコに近づかなくなっていった。
何ヶ月か後、ソコへ気まぐれに寄った私は彼の姿が見えないことに気づいた。
顔見知りの仲間に声をかける。
「彼はどうしたの?」
帰ってきた答えはこうだった。
「好きな子の後姿を見た。と言って車椅子をこぎだしてね、車道で轢かれて死んだんだよ。」
「その人に思いは通じたの?」
と重ねて聞いた私に、仲間たちは言った。
「鈍感の大吟醸、今もまだ気づかないらしい」と。
それ以来、一度もあの街には出かけていない
あの街にも一瞬だけ、音のなくなった瞬間があった。
彼の車椅子の後姿だけが今のあの街には残っている。
次は
「水平線」「転がる」「邪魔」で。 - [93]おっさん 07/05/15 20:25 *Y1gESPhTjUy*/tYnJixYux
- 「水平線」「転がる」「邪魔」
さっきから気になるのは着替えを持っていないことだ。
夜行のフェリーで現場まで行かなければならない。
まったく・・ 突然の命令には往生するぜ・・
夜の海に地平線は・・ まったく見えん。
取りあえず風呂に入ったが、悲惨な修学旅行を思い出したぞ。
飛行機のケースは考えられなかったのか、不信が残る。
ビールを片手にデッキに出れば、煙草が飛ばされ火の粉が転がる。
初めてじゃないが、やはり船は簡単に慣れるもんじゃない。
風は恐ろしく強く、我が身は心細く、時間の経つのが遅すぎる。
携帯はアンテナの線が一本もなかった。
「おい、今からフェリーで帰りは二日後だ。」
「なんで、早めに言わないの。」
「仕方ないだろ、さっき言われたばかりだ。」
フェリーの乗船まで3時間で準備に追われていた。
そう、着替えの下着を持っていないのだ。
そう、さっきの風呂でパンツを洗わなければならなかった。
そう、デッキではズボンの下は何もはいておらず、風が寒かった。
しかし、乗船では女性と一緒である。
船内のビールはやたら高いが、盛り上がらないと夜は長い。
最初はぎこちなくても、お酒の勢いで会話が弾んでくる。
人間アルコールを飲めば、必ず酔っ払うものだ。
うっかり、ズボンの下にパンツがないのを喋ってしまう。
女性の顔が下品とはっきり拒否する。
「どうも、お邪魔しました・・」 - [94]おっさん 07/05/16 11:02 *Y1gESPhTjUy*/tYnJ7C3Fl
- おっと、忘れ物
次回は「空間認識」「経歴詐称」「労働基準法」でお願いします。 - [95]Mr.G 07/06/05 04:25 .MMqV6sMYO
- 「空間認識」「経歴詐称」「労働基準法」
小さい頃から キャッチングもバッティングも、みんなより上手くなかった。
かといってフライもなかなか捕れなかった。
打率も悪いし野手にも向かないのに、野球をやめるのは俺にとって満塁ホームランより難しかった。
こういうの、知ってる。下手の横好きって言うんだ。
小学校3年生のある日、コーチは俺をグラウンド横の木々の前に連れて行った。
「お前、木登りしたことあるか」
首を横に振ると、コーチは課題を出した。
「お前は空間認識能力が低い。だから木登りで鍛えろ。」
説明の内容も繋がりもよくわからなかったが、とりあえず特別メニューらしい。さっさと終わらせて普通の練習に戻ろう。そう思っていたのに、コーチの次の一言に、くらりとめまいがした。
「全部うえまで登ったら言いに来い」
全部とは、この本数を知っていて言っているのだろうか。
ゆうに50本はある。高さも、・・・・・・高い。
いったい何日かかるだろう。
みんなが練習をするのを横目に、一人黙々と木と格闘していた。
一日がすぎ、二日が過ぎ、はじめはそれなりにがんばっていた木登りも、そろそろ飽きた。
野球がしたいのになんでこんなことしなきゃなんないんだ。しかも一人だけ!
もともと得意分野じゃないだけに進むペースは遅かった。しかも隣でみんな練習をしているから、なおさら意欲はそがれた。まだ半分も登りきらないうちにノックをしているコーチのもとに行った。
「コーチ、できました」
コーチは手を止めて俺を見た。
「全部登れたのか」
俺は黙ってうなずいた。ささやかな経歴詐称。
だって、はやく野球がしたい。
「じゃあ早速入れ」
コーチはグラウンドを示し、ノックを続けた。
久々に練習に加わった気がした。そんなに日にちは経ってないのに、とても長い間はなれていた気がする。相変わらず上手くさばけなかったがすごく楽しかった。
しかし、コーチの顔はすぐれなかった。何球か球を出して、考え込んでしまった。
次の日からまたコーチは特別メニューを出した。その次も、そのまた次も、課題を出しては練習に加え、様子を伺っていた。
そのうちに、コーチが真剣に自分のことを考えてくれているのだということにやっと気づいた。目の下のくま、色々なメニュー、かばんの中の専門書やプリント類。
「お前は今でも野球が好きだし楽しいだろうが、今より上手くなったらもっともっと楽しくなるぞ」
そういったコーチの顔は子供たちに負けず劣らず汗と砂にまみれて汚れていた。
俺が木登りを再開したのは、言うまでもない。
野球好きが功を奏して、トレーニングになるものは一見関係がなくてもつづけるようになった。
日々常に練習。そしてそれが趣味。
それが仕事になるのは、初めて木登りをしてから10年後の春だった。
前年のドラフト?まあ それは何位だったかはよしとしよう。
体を鍛えるのは当然のこととして、生活のほとんどが野球のために費やされた。
世に言う労働基準法なんてのは軽やかに無視。だって労働だけど、労働じゃない。
確かに 実力社会。日々常に練習。
でも それが趣味。それが悦び。
もっともっと 野球を楽しむために。
え〜、長くてすみません。しかも駄文の羅列。
がんばることを覚えたやつはすごいことになる、
それが好きなものなら尚更。といったところだろうか。
コーチの真剣さに心打たれたのがきっかけで、
周りに応えようとする想い、的なかんじ。
あしからず。
↓次は「バイク」「2人」「道」 - [96]理子 07/06/16 11:31 *3OptlDHXuiR*SXui3J5GLo
- 「バイク」「2人」「道」
「お前が先に乗ったら、俺が乗れないだろ?あのさ、女乗りってぇ〜のは男は出来ないの!」
「え〜!!そうなの?」
私の髪をくしゃっとして笑った。
初めてのデートで緊張しているのに、初めて乗るバイクに動揺してしまった。
背中にしがみつき、流れる景色をただ見ていた幸せな時間。
ずっと、ずっとこのままでいたかった。
お元気ですか?
あなたが都会の大学に行ってから1年が経ちました。
私は相変わらず上手くもない絵を描いています。
友達はたくさん出来ましたか?
勉強とか忙しいのでしょうね。
私のことは気にしなくていいのよ。
連絡がなくても、元気でいてさえくれればそれでいいの。
2人で歩いたポプラの並木道、覚えてる?
秋になったらまた一緒に歩きたいな。
ポストにストンと落ちたとき、後をバイクが通り過ぎた。
見覚えのあるチェックのシャツが、風にふくらんでいた。
次は「かたつむり」「灯台」「揺れる」 - [97]yassan 07/06/17 00:43 *Y1gESPhTjUy*Ske2L3di49
- 「かたつむり」「灯台」「揺れる」
梅雨初日の海を晴天の真夏日とは予想外犬。
白い雲は空を海と区別して、梅雨空を消去する。
だからって、君が青と白の水玉の服を着る事はないよ。
目の前の擦り切れたジーンズの僕への弁明どうなの。
着ていく服の打ち合わせもしたのに。
携帯の液晶に髪が揺れる君よ。
いつまでも笑ってないで、何とか言ってくれ。
え、灯台が見えるって?
どれどれ、振りむいても見えないじゃないか
液晶の中で笑う、君の青い目がかたつむり。
次は「土曜日」「8時」「出勤」でお願いします。 - [98]春寝るさー 07/07/09 19:55 hiw3aYA3AU
- はじめまして。お邪魔します〜。
「土曜日」「8時」「出勤」
土曜日が目を覚ましたのは火曜日のことだった。ゆっくりと体を起こして部屋を見渡す。七つ並んだベッドに火曜日の姿だけが見当たらなかった。だから今は火曜日だと分かる。今日は彼の出勤日なのだ。
それにしても自分の番までは、まだまだ時間がある。こんな時間に目を覚ますなんて。できることなら金曜日のギリギリまでぐっすりと寝ていたかったのに。土曜日はそう思いながら、右側でぐっすり眠っている月水木金曜日や左隣でいびきをかいている日曜日を見てため息をついた。
――『赤い靴』。そうだ、先週の赤い靴の少女はあの後どうなったのだろう。土曜日は不意に自分の出勤日のことを思い出した。
その娘はとびきり素敵な赤い靴を履いていた。エナメルのピカピカ光る綺麗な赤い色。嬉しそうに歌を口ずさみながら、ブロンドの髪をまるで踊るように弾ませて歩いていた。
土曜日はその日、ずっとその少女を眺めていたのだ。家族と買い物に出かける様子を、子犬を連れてお散歩するところを、友達と遊ぶときでさえ、少女はその素敵な靴を履いて歩いた。たぶんお出かけ用の特別な靴だろうに、少女はとても気に入ってずっとずっと履いていたのだ。
土曜日はベッド脇の床にきちんと揃えられた自分の靴を見下ろした。紺色のさえない紐靴。私の靴もあの子のような、ピカピカの赤い靴ならよかったのに。
「眠れないの?土曜日」
すぐそばで管理人の声がした。土曜日が顔を揚げると微笑を浮かべた管理人が静かに立っていた。
「ねぇ私の靴、こんな紺色のじゃなくて、赤いエナメルの靴とかにならないかしら」
土曜日にとっては切実な願いだった。しかし、管理人は聞き入れてはくれなかった。
「規則ですから。あなただけ特別という訳にはいきません」
声こそやさしいが厳しい口調の管理人の言葉に土曜日はふてくされて顔をぷいっとそむけ、毛布を掴んで頭までベッドにもぐりこんだ。
管理人はしばらく毛布に包まったままの土曜日を眺めていたが、動く気配のないことを見ると諦めて歩き出した。
「管理人」
部屋を出ようとする管理人の背中に土曜日の小さな声が聞こえた。
「はい?」
「……次の土曜日は、一日中雨にしてちょうだい」
「……雨ですね。分かりました。金曜日の夜8時にまた起こしますね。……おやすみなさい」
ドアの閉じる音を聞きながら、土曜日の胸はチクリと痛んだ。
――次の土曜日、雨が降ったら、あの子は赤い靴を履くのを諦めるかしら。
すみません。無駄に長くなった・・・。
次、「困ったとき」「準備」「コーディネート」で。
補足事項
・内容は前の文章と繋がったものである必要はありません
・前の投稿者がお題を指定しなかった場合、その前のお題を継続してお題とします
・指定されたお題は具体的に文中に含めてください
・動詞は基本的に活用可
・先を越されちゃっても気にせず投稿しちゃってください。その際、お題は継続で
・内容は前の文章と繋がったものである必要はありません
・前の投稿者がお題を指定しなかった場合、その前のお題を継続してお題とします
・指定されたお題は具体的に文中に含めてください
・動詞は基本的に活用可
・先を越されちゃっても気にせず投稿しちゃってください。その際、お題は継続で
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